大統領から医者まであらゆる役を完璧にこなす。「自分の内面に複数の自分を持っている」と言われるイ・ソンミンの新作『ビースト』(10月15日公開)では、怪物を捕まえるために怪物になっていく刑事を見事に演じている。同作の公開を受けて、現在発売中の『週刊文春CINEMA!』より、「俳優 イ・ソンミンの魅力」を特別に全文掲載する。
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俳優のイ・ソンミンの名前の前には「信じて見る俳優」という修飾語が付く。彼の出演作は彼の演技力だけでも見る価値があるという賛辞であり、多くの製作者や監督が一緒に仕事をしたい俳優としてイ・ソンミンを一番に挙げる理由でもある。
役者としてのイ・ソンミンの魅力について、映画評論家のチェ・グァンヒは次のように評価する。
「ソン・ガンホやファン・ジョンミンなど、演技派に数えられる俳優は、実は得意な役が決まっている。ところが、イ・ソンミンは、消化できるキャラクターの幅がとても広い。大統領、刑事、北朝鮮幹部、父親など、いかなる役割も完璧に果たす。この演技力のため、主演級であるにもかかわらず、“多作”をする俳優になった」
演劇舞台で俳優として活動していたイ・ソンミンは、2000年に青春シチュエーションコメディの『三人の友達「俺たち三人組」』に端役で出演し、ドラマデビューして以来、100本近くの映画やドラマに出演している。ドラマ『ミセン』で主演俳優として浮上した2014年以降も年平均4本の映画やドラマに出演するなど、旺盛な活動を続けている。
2018年には『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』など3本の主演映画を含め、4本の映画に出演し、4本の合計観客数が1000万を超え、「1000万俳優」となった。続いて、2019年には3本の映画や1本のドラマ、2020年には2本の映画や2本のドラマ、2021年には3本の映画に出演した。22年にも3本の主演映画や2本のドラマに出演予定だ。
イ・ソンミンは過去のインタビューで「多作」の理由について、次のように説明している。
もともと断れない人なので多いように見える。多く出演すること自体、そんなに大変なことでもないし、私を必要とするなら出演したい。私たち(俳優)にはこの現場が労働現場であり、いつもそうやって臨んでいる。(2018年6月、映画雑誌『CINE21』のインタビュー中)
1968年、韓国東南側に位置する慶尚北道奉化郡で生まれたイ・ソンミンは、高校時代、学校で団体観覧に行った『立ち上がれアルバート』(バーニー・サイモンら作)という演劇を見て演劇俳優になる夢を持つようになった。しかし、父親の強い反対で夢を諦めて大学進学のための浪人生活を送った。