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 浪人時代にバス停で偶然「演劇団員募集」の広告を見て隣の栄州市へ駆けつけ、小さな演劇団に入団し、役者としての人生を始める。ローカル劇団で活動していた彼の演技に注目した有名演出家の斡旋で、より広い大邱へと活動拠点を移す。お米を買うお金がなく、コーヒークリームにマーガリンや砂糖を入れて沸かして食事代わりに食べたというエピソードがあるほど生活苦だったが、演技に対する執念は消えなかった。

「役者になりたい! 芝居がしたい! 飯が食べられれば大丈夫。お金はなくても生きられる」ただそれだけが私の人生のすべてで、そうやって生きてきました。(2012年12月24日付『大邱毎日新聞』インタビュー記事より) 

ソン・ガンホの推薦で映画に出演

 大邱で約10年間演劇俳優生活を続けたイ・ソンミンは2002年、大邱に公演に来た演劇団員の勧めで活動舞台をソウルに移し、劇団「次移舞(チャイム)」に入った。1995年に設立された「チャイム」は、『パラサイト』のソン・ガンホ、『友へ チング』のユ・オソン、『ペパーミント・キャンディー』のムン・ソリなど、韓国の大物俳優や女優を輩出した名門劇団だ。

 イ・ソンミンはここで出会った先輩のソン・ガンホの推薦で映画『シークレット・サンシャイン』など計5本のソン・ガンホ主演映画に端役や助演で出演する機会を得た。

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 ソン・ガンホさんは忙しい時でも芝居を見に来てくれます。韓国最高の俳優なので、とても近寄れない方ですが、ご本人が出演する映画に推薦してもくれました。私のような無名の俳優には本当にありがたいことです。(2014年4月14日『Oh My Star』インタビュー記事より)

 芝居のうまい無名俳優だったイ・ソンミンを大衆にしっかりと認識させた作品は2012年のドラマ『ゴールデンタイム』だ。総合病院を背景に、重症外傷の患者を治療する医師たちの一分一秒を争う熾烈な世界と哀歓を描いたヒューマンメディカルドラマだ。イ・ソンミンはカリスマと人類愛あふれる重症外傷外科医を演じた。

 クォン・ソクチャン監督は、助演のイ・ソンミンを主演級のキャラクターに起用した。この博打は大成功を収め、イ・ソンミンは3つ演技賞を受賞した。「芝居が上手い役者」になりたい彼の夢が、ようやく世間から認められ始めた。

「週刊文春CINEMA!」

 2014年に出演したドラマ『ミセン』は、イ・ソンミンが主演俳優を務め高い評価を得た作品だった。プロ囲碁棋士の夢が挫折したチャン・グレ(イム・シワン)が総合商社の契約社員として入社し、多くの難関を通じて成長していく過程を描いた。イ・ソンミンは、社内政治には弱いが部下を守る強さと、いつも充血した目としわくちゃになったワイシャツ姿で仕事に疲れている小市民的な姿を兼ね備えたオ・サンシク次長役を演じた。

 イ・ソンミン特有の率直な生活演技は、オ・サンシクというキャラクターを、周りでよく見かけるが、みんなが望む真の上司として描き出し、ドラマの人気をけん引した。彼はこの作品で、その年の演技賞を独占した。