リム・カーワイ監督のバルカン半島3部作の終章となる『すべて、至るところにある』は、パンデミックと戦争を背景にしたラブ・サスペンス。現地ロケで捉えた旧ユーゴスラビア各地に残る巨大記念碑(スポメニック)の奇観が、強烈な印象を残す。初めて現地に行ったという主演の尚玄にインタビューした。
◆◆◆
――本作に出演した経緯は。
尚玄 リム(・カーワイ監督)の最近作である『COME&GOカム・アンド・ゴー』(2021)、『あなたの微笑み』(22)に続いての出演となりました。もちろん、バルカン半島3部作の前2作は大好きですし、それに、僕はこれまでバックパッカーとして世界の60カ国以上を旅してきたんですが、バルカン半島には行ったことがなかった。いつか行ってみたいと思ってきたので、オファーがあったときに迷わず承諾しました。
1台の車に5人が乗って旅しながらの撮影
――撮影には苦労しましたか?
尚玄 撮影は3週間くらいでしたが、とても大変でした。僕はセルビアから入って、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナの3カ国で撮影をしました。1台の車に5人――リム、撮影監督、録音、(共演の)アデラ・ソー、そして僕が乗って、旅をしながら撮影をしていきました。最小限の人数ですから、主要なキャスト以外は着いた先で、その場にいる人に突然交渉して映画に出てもらったりしました。
宿もシェアしているので、24時間一緒ですから、どうしても疲れてきてしまう。だから途中で3泊4日のオフがあったときは嬉しくて、ひとりでモンテネグロに行きました。アドリア海に面した城塞都市コトルで、ひとりでシーフードとワインを楽しみました。
俳優にとっては恐ろしい現場
――役作りも大変そうですね。
尚玄 この映画、台本がないんです。リムの映画はいつもそうなんです。クランクインする前に事前に聞いていたのは、映画監督の役であるということと、各地のスポメニック(旧ユーゴスラビア時代に建立された戦争記念碑)を回る。その2点だけでした。監督がリムでなければ、こんなオファーはきっと受けなかったと思います(笑)。
ストーリーの全体像も教えてくれない。撮影直前にシーンの概要を聞いて、自分が演じているジェイという映画監督の人物像を考えて、即興で演じなければならない。正直、演じる側としてはとても不安になります。