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「どうせ無理でしょ」「経営はボランティアではできない」そして減り続ける人口…逆境を撥ね返し北海道の小さな市の書店が人気を集めるまで

『本屋のない人生なんて』より

2024/03/21

genre : ライフ, 社会

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「資金繰りが悪くなってるのは感じてたのさ。それはこういうことよ。取次から本が届くでしょう。届いた本はそのまま買い取るわけじゃなく、返品可能な委託販売なんだけど、届いた本の分は一旦支払うのが決まりなわけ。だけど、本がだんだん売れなくなっていくと、支払いが滞っていくのさ。売れないことがわかっているから、取次からは話題の本やベストセラーといった売れ筋は送られてこなくなる。悪循環で、ほしい本がないとなると、お客さんも遠のくよね。最後の方は、正直言って、棚はスカスカになってたと思うよ」

留萌の町から最後の本屋が消える

 出版業界には一般の流通とは異なる独自の商慣習がある。書店は書籍や雑誌などの商材を原則として「取次」と呼ばれる卸業から仕入れる。その仕入れの際、書店は取次から「買い取る」のではなく、委託販売という方法を取る。一定期間内であれば書店は売れなかったものを返品することができるシステムだ。委託販売とはいえ、仕入れた商材については一旦支払いをしなくてはならない代わりに、返品した商材については返金される。今が勤めていた書店では、支払いが滞ったために、取次業者が徐々に売れ筋の本を配本しなくなっていったという話だった。

 2010(平成22)年12月、留萌の町から最後の本屋が消えた。昭和初期にこの町に初めてできたいちばん古い書店だった。

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開店前、店長の作業風景 撮影/三宅玲子

 市街地から留萌ブックセンターのある方角とは反対に西へ向かって坂道を上ると、小高い丘に留萌市役所がある。簡素な市庁舎からは日本海に面した入江とその先の山々が見える。

全国展開している書店を誘致しようと思った理由

 滞在2日目、副市長の渡辺稔之を訪ねた。

 渡辺は留萌市に出向している北海道庁職員だ。10年前に留萌市で最後の書店が倒産したとき、渡辺は留萌振興局農政部の課長として留萌に赴任中だった。

留萌市役所 撮影/三宅玲子

 副市長室で迎え出た渡辺は、ぱりっとした身だしなみの恰幅のよい紳士だった。あの頃、町から書店がなくなることが気がかりだったと言い、「もう時効でしょうから」という言葉とともに、渡辺は10年前のきっかけを話し始めた。

「私自身、オホーツク海に面した紋別郡の滝上町という小さな町で育ちました。子どもの頃、町の小さな本屋では手に入れられる本に限りがありました。それでも、本屋があって助かりましたので、町に本屋があることのありがたさをよく知っています。町から本屋がなくなったら子どもたちは本を自分で選んで買う楽しみがなくなります。参考書を買うのだって困るでしょう。

 アマゾンがあるじゃないかという人もいる。もちろんそうなのですが、実際にほしい本を自分で探して、自分で手にとって、自分で選ぶことのできる空間があるのとないのとでは、長い目で見たときに影響は大きいと思うんです」