文春オンライン

連載刑務官三代 坂本敏夫が向き合った昭和の受刑者たち

羽田空港で血をしたたらせた絞殺遺体が…紅白出場歌手の「銀座ホステス愛人殺人」の “その後”

克美しげるの愛人殺人と刑務所慰問 #1

2024/03/29
note

再起を期した北海道巡業を巡り…

内縁の妻のような存在となった銀座のホステスと、紅白出場歌手・克美しげるだったが…… ©AFLO

 Aさんはこの巡業旅行に同行することを望んだ。しかし、Aさんと結婚式まで挙げながら、実際は妻と正式離婚をしていなかった克美はこれをスキャンダルになるとして拒み、激しい口論となった。そして明け方にAさんが寝静まると首を絞めて殺害する。

 札幌に出発する5月6日の午前4時ごろの出来事だった。克美は遺体を車のトランクに入れて埋める場所を都内で探したが、結局見つからず、羽田空港に向かうと第2有料駐車場に車を止めてそのまま機上の人となった。あまりに杜撰な所業だが、犯罪の隠ぺいよりも歌手として再起をかけるキャンペーンに遅れるわけにはいかないという気持ちが強かったのであろうか。

 約2昼夜放置されたことで異変が発覚した車のナンバープレートからは、所有者であるバーの経営者がすぐに割り出され、「馴染み客である歌手の克美しげるに貸したままになっている」との証言が出た。

ADVERTISEMENT

 克美の足取りを追った警視庁が即座に北海道警に指名手配を送ると、巡業先の旭川で緊急逮捕となった。遺体が発見されてから、日付が変わらないうちになされたスピード検挙だった。克美は前日も札幌のレコード店でのサイン会、キャバレーでのステージと精力的にスケジュールをこなし、アドリブで「8マン」も歌って宴席を盛り上げていたという。

拘束された当時の克美しげる

懲役10年の判決…「克美のことはよく覚えています」

 現役の歌手が愛人を殺害し、遺体を遺棄するというショッキングな事件に対し、8月23日、東京地裁は懲役10年という判決を下した。求刑は15年だった。