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「どんな子でも引っかかる」女性を騙して7300万円を荒稼ぎした男たちの“悪質な手口”の実態

『半グレ ―反社会勢力の実像―』より #1

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 恋愛関係にあると信じ込ませた女性を会員制バーに誘い込み、高額な酒をツケで注文させ、借金を背負わせる……。のべ262人の女性を騙していた男たちは、借金返済のために女性を風俗店へと斡旋することで約7300万円もの金を得ていた。2019年1月に逮捕された「スパイラル」というグループが起こした事件である。

 そんな卑劣な犯罪を行っていた「スパイラル」の一員との接触に、NHKスペシャル取材班が成功した。彼らはいったいどのようにして女性たちを“負のスパイラル”に陥れていたのか。二度とこのような事件が起きぬよう、そして事件は決して他人ごとではないことを知ってもらうために『半グレ ―反社会勢力の実像―』から一部を引用し、その悪質な手口を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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“お金の教育”から負のスパイラルへ

「“お金の教育”っていうのをやるんです。『お金を持ってみたら価値観も変わるし、人生が豊かになるよ』ということを、毎日のように話して常識を覆していく。そして、夜の店に紹介するんです。そのころには、女の子たちは洗脳されて正しい判断ができなくなっています。『借金の返済もあるし、1回くらいなら』って」

 さらに、風俗店での勤務を女性たちに決心させるまでの順序があるという。

「紹介する夜の仕事は、最初は水商売とか、ハードルの低い稼げない種類の店から始めます。そのあと、風俗店のように、どんどんステージを上げていって、『俺のためにもっと良い店で働いてほしい』とか、『本当はこんな店で働いてほしくないけど、○○万円稼ぐまで頑張ろう」と言って“管理”するんですよ」

 女性たちの稼ぎは、当初の予定どおり借金の返済に充てさせるが、さらにバーに来るよう誘い出し、また高額な酒を注文させた。メンバーの誕生日には200万円のシャンパンを入れさせ、グループの後輩の誕生日に「先輩の俺の顔を立ててほしい」と50万円ほどの酒を入れさせていた。女性たちは際限なく借金を重ね、風俗店の仕事から抜け出せなくなる。

 底なしのらせんに落ちていく様子から、バーの名前は、「Spiral(らせん)」と名付けられていた。バーでの女性の飲食代の約40パーセント(バーバック)と、女性の風俗店での売り上げの約10パーセント(スカウトバック)が、スカウトの儲けになる。女性が落ちれば落ちるほど、メンバーたちが得る報酬は増え、月に200万円を稼ぐ学生もいた。

©iStock.com

「女性を“モノ”として見ていました。どんな子でも引っかかるし、風俗で稼ぐ金額の目標を設定したら、それだけ自分にも入ってくる。稼いでいるスカウトは常に4、5人の“色カノ”を回していましたね」

「どんな子でも引っかかる」――そうは言うものの、女性が風俗店で仕事を始めるのは、やはりハードルが高いのではないか。彼の話を聞きながら感覚的に思った。

 しかし、その後の取材で、さらにグループの緻密で組織的な手口が見えてきた。

女性に考えを“埋め込む”マニュアル

 グループには、女性を斡旋するための手口を記した、数種類のマニュアルが存在していた。

 今回、取材でいくつかを入手することができた。全部で約140ページにもなり、元メンバーAが語った、女性への声かけ方法や“お金の教育”、風俗店への誘導方法などが書かれていた。「覚えることで誰でも一定のレベルまでいく」とまであり、いかに女性を取り込んでいくか自信満々の筆致で書かれていた。