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少女漫画の革命前夜を描く天才達の青春期

『少年の名はジルベール』 (竹宮惠子 著)

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たけみやけいこ/1950年徳島県生まれ。68年に漫画家デビー。76年に『風と木の詩』の連載を始め、大きな話題に。『ファラオの墓』『地球へ…』など著作多数。80年、小学館漫画賞受賞。2000年より京都精華大学教授。14年、学長就任。同年、紫綬褒章を受ける。

 少女漫画史に輝く“花の24年組”。その中心的存在の竹宮惠子さんが、代表作『風と木の詩』を描くまでの青春を瑞々しく綴った。

「昭和24年生まれの萩尾望都さんと25年生まれの私、他にも年の近い漫画家が多かったので、ただ『同期よね』くらいの感じで自分達を24年組と呼んだのが始まりなんです」

 20歳で上京した竹宮さんは萩尾さんと一緒に家を借りる。2人の良き理解者である増山法恵さんや漫画家達が集う家は“大泉サロン”と呼ばれ、少女漫画版トキワ荘のような存在に。

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「サロンなんて洒落た家では全然なかったけど(笑)、女性同士が交流するにはアパートより一軒家が丁度よかったと思います。1階のコタツでお喋りして、2階にはそれぞれ机があって」

 だが、「一つ屋根の下に作家が2人いるなんて」と同居に反対した編集者の危惧がやがて当たる。この頃すでに竹宮さんは、少年達が激しく求め合う『風と木の詩』の着想を温めていた。70年代の少女漫画では異端のテーマ。連載を許されない竹宮さんの目に、萩尾さんの仕事ぶりは眩しく映った。そんな創作者同士の葛藤も率直に語られている。

「私にとっては終わったことだから、完了した体験として書けたんです。あの頃は分からなかったけど、萩尾さんも“風木”にこだわる私について『そんな強い想いの作品を持っていることがうらやましい』と他の人に話していたことがあったそうです」

 ボツに負けず強行突破を重ねる姿は痛快で一途さが胸に響く。ついに世に出た“風木”は熱狂的支持を得た。本書の題にもある主人公ジルベールなくしては、BLというジャンルの誕生もなかったかもしれない。

「作品を出させてさえくれれば、人気をとる自信はありました。ジャンルになるほど多くの読者がいるとは予想していなかったですけれど……。女性心理のメカニズムを描くのに適した表現方法なのでしょうね。

“風木”はライフワークとして長期的に取り組めばいいかと諦めかけたこともありましたが、一方で漫画家としてのピークは32歳頃と自覚していたので焦ったし、苦しかった。今思えば間に合ってよかったです」

 天才と仰ぎ見られる人にも、ジェラシーを抱いたり、悔し泣きしたりした若き日々が確かにあったのだ。

「それは誰にもあるでしょう(笑)。でも、若い人がこれを読んで『皆同じ、葛藤するんだ』と前向きになってくれたら嬉しいですね」

後の少女漫画に多大な影響を与えることになる『風と木の詩』。だが、少年同士の愛を性愛も含めて描く作品は、なかなか発表の場を得られなかった。1970年に上京、同じく漫画家の萩尾望都と共同生活を送りながら、本当に描きたい作品を描くための著者の奮闘や、仲間へのジェラシーなどを生き生きと振り返る自伝。

少年の名はジルベール

竹宮 惠子(著)

小学館
2016年1月27日 発売

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