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自分で作ったポップスの魅力を再発見

おぐら そして2018年ついに、ニューアルバム『Boys & Girls』で、かつてのヒット曲をピアノ・ソロでセルフカバーしました。

大江 デビュー35周年の記念盤です。

速水 留学中にご自身の曲を聴いたりすることはあったんですか?

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大江 ほんとたまにですね。このアルバムを作るにあたって、ずっと仕舞ってあったのを久しぶりに引っ張り出したような感覚でした。普段ジャズを聴いてるヘッドホンで、部屋を暗くして聴いてみたら、まぁずいぶんとたくさんの発見があって。自分で書いたから当然わかってはいるんだけど、改めて「こういう譜割りになってたんだ」とか「このブリッジは覚えてる以上に大きい意味があったんだな」とか。そして何より、大村憲司さん、清水信之さん、大村雅朗さんのアレンジが本当に凝っている。親のありがたさというか、こんなに年月が経って、心から思い知らされましたね。

 

速水 当時よりさらに理解が深まったような。

大江 あの頃は若すぎて傲慢で、やってもらって当たり前ぐらいに思ってたのかな。アレンジャーが僕のことをわかってくれていたので、それに甘えて自分中心に考えていました。それをピアノ・ソロで演奏するにあたって、今度は自分が大村憲司になって曲を俯瞰で捉えるんだって。どうにか新しい作品に仕上げなくちゃいけない苦悶の中で、当時のあまりにアイデアに満ちた衣を羽織って、次々に楽曲が飛び出てくるさまを見てね、これはもう絶対に原曲の良さを変えちゃいけないってまず思いました。でも僕はいま、ジャズのフィールドに立っているわけでしょう? そんな自分が大江千里のポップをモチーフに、あのクリスマスの日にウィンドウに飾られていたツリーを作り始めたような、ここでやっと、ひとつの答えへのヒントが見えて来たような気がしたんです。

 

速水 自分で作ったポップスの魅力を再発見できたことは、セルフカバーとはいえ、ちゃんと前に進んでいる証拠ですよね。

おぐら 10代から築き上げてきたポップスの才能と、50歳を過ぎて身につけたジャズの技術が、ようやく実を結んで作品になった。

大江 僕はインストの曲を書く時も、いまだに日本語の詞と一緒に書くんです。詞があるから、情景があるから、メロディを引っ張り出すことができる。僕が音楽を作っている時に一番エネルギーが出るのは、やっぱり詞なんだなって。リリックがないと、メロディは生まれない。そのことに改めて気づきましたね。

写真=佐藤亘/文藝春秋