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「な、な、なにこのコラボ……」心地よい自虐作『翔んで埼玉』が翔べなくなった日

サブカルチャーの理想が、スクリーンの外の現実に敗北した

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2019/03/21
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批判が殺到した魔のコラボ

 3月13日、映画『翔んで埼玉』のツイッター公式アカウントはあるツイートを引用した。それは高須クリニックが運営していると見られるアカウントによる、映画『翔んで埼玉』とのコラボ企画としてオリジナルTシャツを20名にプレゼントするという趣旨のツイートだった。


 アカウントのツイートを遡ると、実は今回の企画のために作られたアカウントではなく、昨年の5月には東宝映画『のみとり侍』とのコラボ企画に使われていたことがわかる。映画『翔んで埼玉』の公開日は2019年2月22日で、高須クリニックのコラボについて最初にツイートされているのは3月13日だから、おそらくは初登場1位という予想を覆すヒットが話題になったあとに決まったコラボのために、以前別の映画でコラボした際に作ったアカウントを流用したのだろう。

 そして、このコラボには多くの批判が寄せられた。高須クリニックの院長、高須克弥氏が過去に繰り返してきた発言に関わる批判である。

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高須克弥氏 ©文藝春秋

「南京もアウシュビッツも捏造だと思う」という過去ツイート

 一例を上げれば2017年、サイモン・ウィーゼンタール・センターは公式声明として彼のホロコーストに関する発言を理由にアメリカ美容外科学会の会員停止を要請し、自主的な退会か除名かは言い分が食い違うものの、実際に学会から外れている。

 そして今回のコラボが批判を受けた後にも、高須院長の「南京もアウシュビッツも捏造だと思う」という2015年の過去ツイート(現在に至るまで撤回も削除もされていない)に対し、ポーランドのアウシュビッツ記念館の公式ツイッターアカウントが2019年3月15日付けで「アウシュビッツは世界中の人々の心に絶えず忠告する史実です」と日本語でリプライを送る異例の事態になっている。

 映画『翔んで埼玉』の広報担当者(東映配給である)にしてみれば、去年同じように東宝さんとコラボした時は何も言われなかったじゃないですか、なんでうちだけという思いはあるだろう。そもそも高須クリニックのCMはTV雑誌問わず豊富な資金力で全面展開されているし、高須院長本人もテレビ番組に自ら出演している。ピーピー言ってる邦画、それも東映(ごめん)の広報担当者が担当者の一存で政治性を理由に断る方が困難なのかもしれない。法的に問題は何もなく、他社もみんなやってるのだ。少なくとも日本のメディアにおいては。