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大病を乗り越えた末につくり得たアート

 小谷元彦は1年半前、心筋梗塞に見舞われて倒れるも、一命をとりとめていま、創作に打ち込めるまで回復を果たした。生死の境をさ迷った経験が、今作には色濃く反映しているようだ。

 病に陥ったとき小谷は、自分が統一されたひとつの存在ではなく、アイデンティティがパラレルに存在していることを感じたのだという。ここにたしかにいるはずの自分は、自分であってまた自分ではない。そんな考えを得て、この世の整合性に捉われることなどないならば、自己が多様な姿をとるのもまた自然なことと思い至ったのだろう。

小谷元彦「Tulpa – Here is me」展 会場風景

 会場に身を置いていて、ここの空気が何かの気配に満ちていると強く感じるのは、ひょっとするとアーティスト本人の存在というか思念のようなものが、人体像という枠を超えて漂い出て、空間全体を満たしているからではないのか。

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 造形美術はかたちや色によって人を癒したり、心を動かすだけに留まらない。どうやら何かもっと大きなものまで表現することだってできると、実感させられる展示だ。