きょう2月12日はミュージシャンの武部聡志の60歳の誕生日である。武部は国立音楽大学在学中よりキーボーディスト、アレンジャーとして多くのアーティストを手がけてきた。1983年からは松任谷由実のコンサートツアーの音楽監督を担当するようになり、ほかにもテレビドラマのサウンドトラックなど活動の幅を広げていく。1990年には音楽プロデューサーとしての活動を本格的に開始し、これまでに一青窈、今井美樹、大黒摩季などを担当、多くのヒット作を生んできた。

坂本美雨(左)とピアノセッションした武部聡志

 卒業ソングの定番のひとつ、斉藤由貴の「卒業」(1985年。松本隆作詞、筒美京平作曲)は、ヒットチャートに初めて武部の名が編曲者として出た作品である。アレンジにあたっては、詞から情景を想像しながら、そこに合う音を探した。たとえば、イントロは学校のチャイムから着想を得たものだという。歌詞のみならず、そこにサウンドが乗ることで、映像が頭に思い浮かぶというのが、武部アレンジのマジックといえる。

斉藤由貴 ©山田真実/文藝春秋

 音楽プロデューサーとしての武部は、そのアーティストにしかできないものを見つけることに重きを置いている。そのため、相手とまずじっくりと向き合い、その人生を知るところから始めるという(茂木健一郎・NHK「プロフェッショナル」制作班編『プロフェッショナル 仕事の流儀 武部聡志 音楽プロデューサー 心揺さぶる歌は、こうして生まれる』NHK出版)。

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一青窈 ©深野未季/文藝春秋

 一青窈ともじっくり向き合いながら、じつに3年がかりでいくつもの曲をつくり続けた。この間、レコード会社も回ったが、当時はダンスミュージックやR&B的なものがヒットチャートの主流だった時代で、なかなか相手にされなかったという。しかし武部は時代におもねることなく、一青にしかないものを引き出すのに専念した。その努力は、2002年の彼女のデビュー曲「もらい泣き」のヒットにより実を結ぶことになる。