「昔のままに鉄道が走り続けているよりも」
がっちりリピーターを掴むスーパーカートと高千穂の景色。さらに鉄道健在時代の状態をそのままに維持している高千穂駅構内には2両の気動車も保存されており、そのうち1両を使って体験運転も実施していて、こちらも大人気だという。
かくして、あまてらす鉄道は押しも押されもせぬ高千穂の観光の“目玉”のひとつになった。運行開始当初は素人集団によるカートの運行に渋面だった高千穂町も、今ではすっかり支援の構え。廃線跡を活用した鉄道公園化の計画もあるほどだ。
「正直なところ、鉄道がなくなってもほとんど不便には感じなかった。道路も整備されていて車のほうが鉄道より速く延岡まで行けたからね。観光客にしたって熊本地震の影響のほうが大きかったからね。だから、昔のままに鉄道が走り続けているよりも、今みたいにスーパーカートに観光客がたくさん乗りに来てくれる方がいいのかもしれないね」
ノスタルジーだけでもなく、町の歎きでもなく
もともとあまてらす鉄道は高千穂町出身の作家・高山文彦さんらが中心となって“鉄路復活”を目指して発足した。スーパーカートもその大目標を叶えるための下地づくりとしてスタートした。だが、それがいつしか高千穂観光にはなくてはならない存在に。皮肉な話ではあるけれど、高千穂町にとって鉄道の廃止は新たなチャンスの到来だったのだ。
小手川さんは言う。
「3月からは定員を3倍の30人に増やした新しいスーパーカートが走り始めます。今までは断っていたお客さんにも乗ってもらえる。これからもたくさんの人に楽しんでもらいたいから、頑張らないといけませんね」
廃線跡――。それは古き良き鉄道の時代を偲ぶノスタルジックな空間でも活気の失われた町の嘆きの象徴でもなく、新たな希望をもたらしてくれる場所。そんな可能性を、神話の里のスーパーカートの賑わいが教えてくれている。
写真=鼠入昌史