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先輩男優の財布には、いつも100万円入っていた

 ちょうどその頃、森林は仕事終わりに、男優の先輩から飲みに誘われた。「今は違うんですけど、当時の男優の世界は完全に縦社会でした」。いざ酒を飲み始めると、その先輩は嫌な感じで森林に絡んできた。

「お前、どんな家で育ったんだ、って。親の仕事とか明かしたくないから、普通のサラリーマンの家です、って答えたんです。そしたら、サラリーマンの給料なんてせいぜい30万とか40万くらいのもんだろう。でもな、お前の親父の給料なんて、俺は2日で稼げるんだよ、って言われたんですよね」

 

 突然父親を馬鹿にされた悔しさと同時に、森林は「だけど、2日で30万稼ぐなんてすごいな」とも感じたという。「確かにその人の財布には、いつも100万円入ってたんです。そのときに、自分は電通に入るとか、官僚になるとか、そういう道はなくなったけど、ここで金を稼ぐ、男優界で成功するっていう道があるじゃないかと思ったんです」

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 それは「ある意味、追い込まれるというか、逃げ込むというか、そういう面もあったと思います」と森林は振り返る。「でも、そこから面白いほど、男優の仕事がうまくいきはじめるんですよね。もう本当に」

「これじゃないか」という確信が増していった

 男優になっても、モテないことに変わりはなかった。だが、それ以上に心が満たされていく感覚があった。「男優界の同期にしみけんと黒田くん(黒田悠斗)がいて。この2人はしゅっとしていて、若い女優たちからモテるんです。でも僕は、このコミュニティでもモテない。来るのはキモいストーカー役とか、鬱屈とした近親相姦の息子役とか、そういう役なわけですよね。でも、卑屈になってるところをうまく活かしたいじめられっ子の役とかがはまって、褒められたりしてました」

 そして2年も経つころには、“絡み”の仕事も任されるようになった。「そうなると、汁男優という属性じゃなくて、森林原人っていう個人名でキャスティングされるようになるんです。女優さんにも個人名で覚えてもらえて、セックスができる。やりがいもある、手応えもある、しかもお金も稼げる。そんな風になってきて、『これじゃないか』って確信が増していったんです」

 

 デビュー当時の話をする時、森林は「褒められる」という言葉を何度も繰り返した。それは、彼がAV界にいつづけた大きな動機だったのかもしれない。

 AV男優として、順調にキャリアを歩み始めた森林。だがまもなく、その身に大きな転機が訪れる。親にAV出演が知られてしまう、いわゆる“親バレ”だ。それはデビュー2年目、5月の母の日のことだったという。

撮影=杉山秀樹/文藝春秋

#3に続く