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「奇襲」を仕掛けてきた東海大と青学大

 一方で「奇襲」を仕掛けてきたのが東海大と青学大の2チームだ。

 これは正直、予想外の出来事だった。

 奇襲をかけるなら層の厚さに弱点があり、先頭でレースを進めることでその弱点を補うため「往路必勝」の策を取らざるを得ないチームだと思っていたからだ。ところがむしろ選手層の厚さに強みを持つ両校が、意外な心理戦を仕掛けて来たのだ。

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 まず、東海大は2区に塩澤稀夕(3年)を起用して来た。塩澤は今季ここまで出雲、全日本の両駅伝でも好走しており、トラックでのスピードもある。もともと走力は折り紙付きの選手ではあったが、初の箱根路でいきなりエース区間の2区というのは予想外。どちらかというとスピード派のランナーでもあり、適性区間としても1区や3区向きだと思われていた。東海大の2区は同じ3年生の名取燎太や「黄金世代」の4年生・阪口竜平という線が濃厚だったため、各校ともこの采配には驚いたのではないか。両角速監督は「連覇する自信はある。10区で逆転したいですね」と総合優勝に自信を見せている。

東海大学・塩澤選手(右) ©︎文藝春秋
東海大学・両角監督 ©︎文藝春秋

 また、青学大は2区にルーキーの岸本大紀を抜擢。原晋監督は早くから岸本の能力の高さを買っており、「(2028年の)ロサンゼルス五輪のマラソン代表に絡んでくる逸材」と語っていた。岸本自身も出雲、全日本とルーキーらしからぬ落ち着いた走りを見せており、実力は十分だったとはいえ、終盤に激しいアップダウンがある難コースの箱根2区は、1年生では苦戦することが多い。そういったデータもあるためエース格である吉田圭太(3年)の起用が有力視されていた分、ルーキーの異例の起用は予想外の展開だった。

青山学院大学・岸本選手(中央) ©︎文藝春秋

 この2校の区間配置が上手いのは、他の2区候補も複数人、控えに回っていることだ。東海大は名取、阪口に加えて主将の館澤亨次(4年)。青学大は吉田圭以外に吉田祐也(4年)も控えている。彼らの存在がある以上、他校はギリギリまで両チームの2区の変更を視野に入れないといけないということになる。

東海大学・名取選手 ©︎文藝春秋

「しのぐ2区」か「攻める2区」か

 万が一、塩澤や岸本がもし調子が上がっていないとしても、「当て馬起用なのか、それとも2区起用できるほど好調なのか」という疑問の答えが他チームでは出せない。それだけで他校の動向を牽制する力は非常に大きいのだ。現状のまま、ある意味で「しのぐ2区」でくるのか。それとも攻撃的に「攻める2区」で来るのか――優勝争いに直結する序盤の流れを考えた時に、この両チームの思惑をライバル校がどう捉えるかが、今大会の大きなポイントになってくるだろう。

 そんな視点でここまでの区間配置を見てくると、心理戦ではこの2校が優位に立ったと言える。原監督がエントリー前に「今季は戦術駅伝ですよ! 区間配置など詳しいことは、今季は言えません」と気炎を上げていたが、まさにその言葉通りの展開へと持って行けたわけだ。

 ただし。

 裏を返せば、そもそもなぜ優勝候補の筆頭格である両チームが、「奇襲」とも言える配置を打たざるを得なかったのか、という考え方もできる。総合優勝を睨んで、それを少しでも確実にするためにしかけた単なる心理戦なのか。それとも――そこには何か別の理由があるのだろうか?

 その答えは、新年の箱根路の結果を見て初めてわかるのかもしれない。