女装イベントは今後どう変化していくのか
そもそもなぜ女装がファン感謝デーの余興に取り入れられたかといえば、「男」の世界の代表である野球選手が「女」の格好をするという、そのギャップがうけたからではなかっただろうか。日本は比較的、異性装に対して寛容な文化を持つが、それでも90年代頃までの女装者に向けられる視線の多くは異質なものを見る目であり、笑いであった。ファン感謝デーの女装イベントも、こうした時代の流れに沿ったものだったのである。
しかし90年代以降、ニューハーフタレントが多くテレビに出演し、「綺麗な女装」が世間にも広まっていくようになる。2010年代には「女装男子」「男の娘」という言葉も浸透し、現在では女装のためのメイク本も数多く出版されている。平成年間で女装に対する意識が「笑い」から「綺麗」に変化したのだ。メイクや衣装を作りこみ、事前に撮影した写真を用いる楽天の「イーグルスガールコンテスト」は、この変化を捉え、野球選手の女装を「笑い」から「綺麗」に変えた革新的なイベントだったのである。
ここで、もう一つの流れについて触れておきたい。昨年のカープのファン感謝デーでは、ルーキーの林晃汰、中神拓都、田中法彦、羽月隆太郎がチアガールの衣装を着てCCダンスを踊った。これは女装と言うより、MLBで恒例となっているルーキーに仮装をさせるイベント「ルーキー・ラギングデー」に倣ったものであろう。ドジャースに移籍した前田健太が、チアガール姿でニューヨークの街を歩いていた姿は記憶に新しい。ところがMLBでは、17年から「選手へのいじめである」として、仮装のうち女装のみが禁止となった(「産経ニュース」2017年1月7日)。
われわれは好きな格好をしても笑われるべきではないし、意に染まない格好を強要されるべきでもない。最近ではスカート・ズボンを自由に選べるジェンダーレス制服を導入する学校が増えている。昨年の大晦日の紅白歌合戦では、氷川きよしが紅白の着物を着て登場し、MISIAはLGBTQの象徴でもあるレインボーフラッグをバックに歌い上げた。性の多様性がより受容されるようになる令和の時代、ファン感謝デーの女装イベントは今後どのように変化していくのか、注目していきたいところである。
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