サラリーマンの代弁者・村田修一
通算350号本塁打まであと1本。200併殺打まであと5ゲッツー。あの綺麗な放物線を描くホームランに、ショートの真正面をつく“芸術的ゲッツー”はまだまだ健在だ。最近、個人的に誰かから不当に低い評価を受けたときは、村田さんのことを思い出すようにしている。あいつはもっとしんどいぞと。
会社の偉そうな上司がムカつく。女房が俺の靴下をビニール手袋でつまむ。付き合いたての彼女が三股だった。床屋で何だかよく分からないツーブロックにされた。だからなんだ? 村田さんを見ろ。そんな悩みは小さいもんだ。それでも腐らずキレず、男は黙って代打でヒット。DHが使える交流戦でスタメンのチャンスが回って来たら、しっかり一発を放ってみせる。そういう人間に私もなりたい。
今、世の中の多くのサラリーマンは巨人の25番の背中に自分の人生を重ねている。日常に不満はある。理不尽なこともあるだろう。あと何歳か若かったら、怒りに任せてこの会社を飛び出していたかもしれない。上司を殴りたい。でも殴られへんねん。だって、大人だから。いいおっさんだから。世間体もあれば家庭もある。だから、東京ドームへ行って村田さんに声援を送る。頑張れよ、俺ももう少し頑張るからなんつって。
少なくとも「代打・村田」の登場に球場で今年5度は泣いている。大丈夫か? いやダメだろう。俺ら村田さんがいないとダメなんだ。もはや村田修一とは俺自身だ。いや、この文章を読んでるあなたも今日から村田である。焦ってスマホを投げ捨ててももう遅い。俺もあなたも村田ブラザーズ。なんだこのコラム。とどのつまり、村田修一とは日本のすべてのサラリーマンの代弁者なのである。
正直、現役生活に残された時間はそう長くはないだろう。でも、このまま終わってたまるかよ。プロ野球選手がグラウンドで見せる男の意地。男の意地は時に不様で、時に死ぬほどカッコいい。ベイスターズ時代はあの筒香嘉智も死にたいくらいに憧れた25番。村田さん、今度は多くの巨人の若手選手があんたの背中を見ているぞ。
村田修一、36歳。野球人生の土俵際に追い込まれた2017年。
今こそ頑張れ、ってよりも踏ん張れ、村田。踏ん張れ、巨人。
See you baseball freak……
※「文春野球コラム ペナントレース2017」実施中。この企画は、12人の執筆者がひいきの球団を担当し、野球コラムで戦うペナントレースです。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/2793でHITボタンを押してください。
対戦中:VS オリックス・バファローズ(MEGASTOPPER DOMI)
※対戦とは同時刻に記事をアップして24時間でのHIT数を競うものです。