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気持ちを表には出さない「美学」

 現役時代、あの足を高く上げて投げる姿が特長でした。マウンド上では常に冷静で、熱くなることもなく淡々と投げることに終始して相手打者も何となくかわされていると感じたことでしょう。話し方も温厚で、時々「野球選手なの?」と疑問を持つほど穏やかな性格でした。ところが、ある日の試合後。

「ナニー! このヤロー! 降りてこいっ!」の怒声が球場のロッカー入口に響き渡りました。声の主は森さん。私も含めた報道陣が体を抑えてその場から離れました。

 通路の上から心ないフアンに強烈なヤジを飛ばされたのでしょう。それにしても、普段の行動を目にしていて信じられない光景でした。ファンの声は何を言ったのか聞こえませんでしたが、あれだけの憤りをみせたのでかなり辛辣だったのかも知れません。でも、直後に森さんの「熱い気持ち」を目撃し、何となくホッとした気持ちが湧きました。マウンドではこの気持ちで投げているけど、表には出さない「美学」なのだ、と。

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 シーズンは数字上では折り返しにかかっています。残り試合、ホームでもビジターでも背番号「89」のユニホームがベンチ内に掲げられることになっています。また、帽子にも「89」のワッペンが貼り付けられます。パ・リーグは上位2球団が走っている形になっていますが、西武もしっかり追っています。シーズン前、森さんが絵馬に書いた文字は「日本一」。ぜひ実現してもらいたいものです。あらためて、謹んでご冥福をお祈りします。

ビジター時のベンチ内に掲げられるユニホーム ©中川充四郎

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