もしも東京都民1000万人に実施したら……
検査の実用性を評価するには、真の感染者を正しく陽性と判定できる確率を示す「感度」と、非感染者を正しく陰性と判定できる確率を示す「特異度」を考慮しなくてはなりません。新型コロナウイルスのPCR検査の感度は高くて70%程度ではないかと言われています。つまり、30%以上の人は感染しているのに「陰性」と判定されてしまうのです。これを「偽陰性」と言います。
一方、特異度については不明ですが、どんな検査でも100%はないと言われています。仮に特異度が極めて高く99%だったとしても、100に1人は感染していないのに「陽性」と判定されてしまうことになります。これを「偽陽性」と言います。
さて、この感度70%、特異度99%を前提に、東京都民1000万人のうち1万人(つまり0.1%)が新型コロナウイルスに感染していると仮定して、都民全員にPCR検査を実施した場合を考えてみましょう。なお、検査対象が感染している(疾患を有している)確率を、「検査前確率(事前確率)」と言います。
すると、上の(表1)の通り、正しく陽性と判定できる感染者が7000人(1万人×70%)、一方、間違って陽性と判定してしまう非感染者が、9万9900人(999万人×1%)となります。
陽性と判定されても、本当に感染している確率は6.5%
陽性の検査結果が出た人たちのうち、実際に感染している人の割合を「陽性的中率」というのですが、それを計算すると7000人÷(7000人+9万9900人)×100なので、約6.5%となります。つまり、陽性と判定した人の中で本当に感染している人は、100人のうち6~7人しかいない計算となってしまうのです。
それだけでなく、実際には感染していないのに、陽性とされてしまう「偽陽性」の人が10万人近くも出てしまうことになります。現在、新型コロナウイルスは指定感染症になっているので、たとえ軽症であったとしても、陽性の人は法律に基づき病院に隔離しなくてはいけません。
「軽症な人は病院ではなく家から出ないようにしてもらえばいい」という意見もありますが、1000万人にPCR検査をすると何の症状もなく元気なのに2週間も家に閉じこもらねばならない人が、10万人近くも出てきてしまうかもしれないのです。人権上、このようなことが果たして許されるでしょうか。