もし、上記の行政検査の条件に当てはまるのに保健所がどんどん検査を断っているとか、陽性の結果が出ているのに陰性と改ざんしているといった事実があり、その裏で安倍政権が動いていたことが明らかになったならば、「安倍政権が隠蔽している」と糾弾すべきです。その場合にはぜひ、文春リークスに情報提供してください。
しかし、それを裏付ける証拠がないのに「検査数が少ないのは、隠蔽しているからだ」と発信すると、フェイクニュースになってしまいます。少なくとも、「もっと検査を増やすべき」と言うなら、陰謀論で語るべきでなく、上記のような検査の評価を踏まえたうえで、「それでもやるべきだ」と、医師や社会も納得するような説得力ある議論をすべきです。
HIVの抗体検査でも「偽陽性・偽陰性」の問題はつきまとう
3月6日からPCR検査が保険適用となり、ドライブスルー検査などもするべきと言われています。今後、検査がどんどん広がっていくと、偽陽性や偽陰性が多発していくかもしれません。さらには近い将来、血液検査で新型コロナウイルスの感染の有無が判定できる「抗体検査」が実用化されるでしょう。「PCR検査がダメなら、抗体検査を全員にやればいい」という主張も出てくる可能性があります。
確かに、C型肝炎ウイルスやHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などでも、感度、特異度がともに95%を超えるような、高い精度の抗体検査が実施されています。しかし、それでも100%ではなく、「偽陽性」「偽陰性」の問題が必ずつきまといます。事実、HIVの抗体検査についても、医療従事者向けに次のような注意喚起がされています。
「現在使用できるスクリーニング検査は感度・特異度とも非常に高い優れた検査ですが、常に偽陽性の可能性があり、これは感染率が低い集団で検査を行う際に特に大きな問題となります。スクリーニング検査陽性の段階で結果説明を行う場合には、必ず偽陽性の可能性を念頭に置く必要があります」(国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター「HIV感染症の診断」)。
政治的立場に囚われない“冷静な対応”が求められている
こうしたことを踏まえずに、抗体検査の拡充を訴える主張を安易にテレビやSNSで発信してはいけません。新型コロナウイルスの抗体検査についても、専門家による精度評価や運用方法についてコンセンサスが定まってから、適切な情報を伝えるよう努めるべきです。
ツイッターを見ていると、「検査慎重派=安倍支持派=ネトウヨ」「検査推進派=反安倍派=リベラル(サヨク)」といった構図があるように思います。私も、このようなことを書くと「ネトウヨ」認定されるかもしれません(笑)。
しかし、反安倍派だとしても、検査の科学的な評価の方法を知れば、検査件数を安易に増やすべきではないことは、理解できるはずです。政治的立場に囚われない冷静な対応こそが、新型コロナウイルスの早期終息に寄与する。そう私は信じます。
なお、本文はEBMの実践家として知られる武蔵国分寺公園クリニック院長/CMECジャーナルクラブ編集長の名郷直樹医師の監修を受けました。