色々な事に挑戦して多くの思い出を残して欲しい
せっかくなので聞きにくそうなナイーブな質問もぶつけてみよう。吹奏楽部の甲子園とも言うべき吹奏楽コンクールに備えた準備期間と、夏の高校野球の応援が重なる事についてである。一部では吹奏楽コンクールに集中したいから高校野球の応援に駆り出されるのを良く思わないとの意見もある。それについては、同席の稲田晃祥吹奏楽部相談役が話してくれた。
「うちの娘が吹奏楽部のOBで、阪神の藤浪くん(藤浪晋太郎投手)やオリックスの澤田くん(澤田圭佑投手)と同級生なんです。娘が言うには、コンクールも勿論大切だけれど、甲子園で演奏が出来る事が大阪桐蔭を選んだきっかけでもあると。娘の代は野球部のおかげで、春・夏・春と3回も最後まで甲子園で演奏できて、本当に恵まれた高校生活だったと話してますよ。娘以外の生徒達もやはり甲子園での演奏が一番楽しかったとよく話してますね」
続けて梅田先生が言う。「コンクールに照準を絞る事は決して悪い事では無い。ただ、3年間の高校生活を振り返る時に、一つでも多くの思い出があった方が良いのも当然の事だろう。その為にはやはり色々な事を全力で取り組んで、充実した高校生活を送らないといけない。あれがあるからこれはやらないではなく、色々な事に挑戦して多くの思い出を残して欲しいね」。先生、ホンマにブレなく生徒思いです。教育者の鏡です。
「リハーサルを聞いてから帰ったら?」とのお誘いを頂いたので和歌山県民文化会館の客席を一人占めさせてもらう事にした。指揮棒が止まり最後の音符の余韻が鳴り止んだその瞬間、立ち上がると同時に安堵と不安の入り混じる何とも言えない表情を浮かべる部員たち。しかし、ホールの隅々まで響き渡った彼らの音符の数々は、まるで朝露のような輝きを放って幾重にも重なっていた。野球も吹奏楽も同じで、本当に小さな努力と情熱の積み重ねが感動のプレーを生み出している事を再確認した一日だった。
生徒たちの充実と成長を常に一番に考えて行動する梅田隆司総監督。偉大な音楽家であると同時に、本当に偉大な教育者である。願わくば大阪桐蔭高校吹奏楽部の演奏が、一日でも長く甲子園のアルプススタンドを彩りますように。
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