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「共和国(北朝鮮)はひとたび合意をすれば守る。南朝鮮のように蒸し返すことは決してしない」

 北朝鮮が核開発を巡る米国との合意を、重ねて反故にしてきた経緯を振り返ると、彼の主張をすんなりと受け入れるのは難しい。それはともかくとして、上述した北朝鮮関係者2人の発言を紹介したのは「南朝鮮は約束を守らない」という主張が、少なからぬ日本人が韓国に対して抱く考えと通じると思ったからだ。

「南朝鮮は主人(米国)の顔色をうかがうだけ」

 北朝鮮は韓国の脱北者団体が5月31日に散布した北朝鮮の体制を批判するビラが「最高尊厳(正恩氏)」を冒とくし、韓国当局が散布を黙認したことへの報復と力説する。しかし、ビラの散布は今に始まったことではなく「引き金にすぎない」(日朝関係筋)のである。

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 北朝鮮の激怒する最大の理由は、与正氏が爆破翌日である17日早朝に出した談話を見れば明らかだ。与正氏は次のように批判している。

金正恩朝鮮労働党委員長の妹で党幹部の金与正氏 ©AFLO

「一体、板門店宣言と9月の平壌共同宣言の中で、南朝鮮当局が履行すべき内容をまともに実行したことが一条項でもあるのか。やったことがあるとすれば、当事者の役割を果たさず、主人(米国)の顔色をうかがいつつ、国際社会に物乞いしに通ったことが全てだ。北南間で十分にできることさえ、決断力をもって推し進められず、座りこんでいたのがまさに南朝鮮当局者である」

 板門店宣言には、南北軍事境界線一帯での相手側を批判するビラ散布の中止を明記。南北首脳が18年9月の平壌会談で署名した平壌共同宣言では、中断している開城工業団地と金剛山観光事業を再開することで合意した。平壌共同宣言は、朝鮮半島の東西で南北間にまたがる鉄道と道路の連結工事に着手することもうたう。

 開城工業団地、金剛山観光の両事業は再開すれば、北朝鮮にとって貴重な外貨獲得手段となるはずだった。鉄道・道路の連結は北朝鮮のインフラ整備が飛躍的に進展する。しかし、国連安全保障理事会の経済制裁が解けない現状で、こうした合意は一切、具体化されていない。

 与正氏は「立派だった北南合意が一歩も履行の光を見られずにいるのは、南側が自ら自分の首にかけた親米事大の罠のせいだ」と決め付けた。さらに、「北南合意文のインクが乾かぬうちに、主人が強要する『韓米実務グループ(ワーキンググループ)』なるものを直ちに受け入れ、北南関係の全ての問題をいちいち、ホワイトハウスにお伺いを立ててきたことが今日の残酷な結果となった」と責め立てた。