「北朝鮮でホームレスが増加している」
北朝鮮は17年の安保理制裁強化で主要な収入源である石炭や海産物の輸出に加え、労働者の海外派遣も禁じられた。制裁の影響は住民に重くのしかかる。18年春から相次いだ南北、米朝という両首脳会談によって、北朝鮮の人々は制裁解除とそれに続く生活改善への期待に胸を膨らませた。私が入手した、北朝鮮当局が18年11月に作成した内部文書は「敵の制裁解除に対するいささかの期待も抱くな」と戒めており、緊張の緩みを警戒していたことが分かる。
北朝鮮は新型コロナウイルス対策で、今年1月末から中国との国境を封鎖した。これが北朝鮮経済にさらなる打撃を加えた。北朝鮮の人権問題を担当する国連のトマス・キンタナ特別報告者は9日に発表した声明で、国境近くの住民の多くが収入源を失い、大都市ではホームレスが増加していると指摘した。
韓国の丁世鉉元統一部長官は17日のラジオ番組で「住民から金正恩氏ら指導部への不満が出ている。敵対的行動に出て内部で結束を固める必要がある」と分析した。北朝鮮が怒りの矛先を韓国に向け、住民のガス抜きを図っているという見方だ。
「脱北者はクズ」与正の豹変ぶりがすごい
それにしても、今回際立つのは、18年2月には平昌冬季五輪開会式に出席するために訪韓し、「ほほ笑み外交」を繰り広げた与正氏の豹変ぶりだ。訪韓時には文在寅氏に「早く平壌でお目にかかりたい。文大統領が金正恩委員長に会い、多くの問題で意見を交換すれば、北南関係を早く発展させることができる」とラブコールを送っていた。
それが今回、脱北者について「クズ」呼ばわり。15日に「過去の対決時代に戻そうとしてはならない」と北朝鮮に自制と対話を呼び掛けた文在寅氏に、「真水を飲んであたったような声」「鉄面皮」「むかつく」と罵倒のオンパレードだった。
与正氏の存在感は、今年に入って増す一方だ。今月4日に韓国への報復措置を警告した談話は党機関紙・労働新聞に載り、市民集会でも朗読されるという、最高指導者以外では異例の扱いを受けている。金王朝の血統を継ぐ一員としてナンバー2の地位を固めつつある。爆破予告の談話から時間を置かずに実行に移されたのも実績づくりの狙いがありそうだ。
専門家の間には「正恩氏を健康不安が襲った場合、最高指導者の代行役を担う存在になる」との見方もある。正恩氏には男子がいるが10歳前後とまだ幼い。
対韓国政策を担う党統一戦線部の張錦哲部長は17日に談話を出し、「嫌悪感があって汚らわしい南側当局とこれ以上、対座したい考えがない。今後、交流や協力というものはあり得ない」と韓国との決別を宣言した。
さらに、北朝鮮軍総参謀部報道官は同日、金剛山観光や開城工業団地がある地域への軍部隊展開や、南北軍事境界線付近での軍事訓練再開などを計画していると明らかにした。北朝鮮は今後、韓国との対決姿勢を強めていくとみられ、朝鮮半島における緊張の高まりは避けられそうにない。