白煙がわき上がったかと思うと黒煙がもくもくと膨れだし、建物はあっけなく崩れた。6月16日14時50分、北朝鮮が爆破した南北共同連絡事務所の崩壊シーンは北朝鮮が予告したとおり、悲惨なものだった。
韓国で爆破の報が流れたのは16日16時過ぎ。テレビは慌ただしく特番を組んだが、どの局もコメンテーターとして登場した専門家の分析は迷走。
ある番組では、「今回の北朝鮮の挑発についてどう捉えますか」と問いかけたキャスターに対し、同局の北朝鮮専門記者が「これは挑発という表現は当てはまらない」と抗弁するなど、韓国社会が受けた衝撃、そして当惑ぶりがそのまま映し出された。
“微笑外交”が売りの金与正も豹変
南北共同連絡事務所は、「南北交流と協力の象徴だった」と中道系韓国紙記者は言う。
「南北共同連絡事務所は、それまであった南北交流協力協議事務所が拡張されたもので、2018年4月の『板門店宣言』を受け同年9月に作られました。当時、文在寅大統領は『南北が24時間365日、常に意思疎通できる時代になった』と声を弾ませていた。そこを爆破したことは、『板門店宣言』破棄であり、韓国とは決別するという意味に他ならない」
なぜ、南北融和の“象徴”が爆破されたのか。経緯をざっと整理してみよう。
目に見える予兆は3月から。指揮を執ったのは、金与正・朝鮮労働党第一副部長だ。北朝鮮では、「白頭山の血統」を継ぐ、金正恩・朝鮮労働党委員長の妹。2018年の平昌冬季オリンピックで訪韓、外交デビューした際は“微笑外交”と持ち上げられ、韓国で絶大な信頼を得ていた。
その金与正党第一副部長が豹変したのは3月3日。北朝鮮が行った打撃訓練について韓国が「遺憾」を表明すると、「青瓦台の低能な考え方に驚愕する」というタイトルの談話文を出し、「申し訳ないたとえだが、怯えた犬はさらにやかましく吠える」などと毒舌を並べ罵倒したのだ。