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 今回、金与正が主導しているのはナンバー2としての存在を国内外に知らしめる、特に北朝鮮内でその存在を刻印する目的があるとみられます。この背景についてはコロナ禍でのさらなる経済悪化による体制固めなどいろいろ言われますが、もう一点、金正恩の健康がやはり芳しくないことも関係しているのではないでしょうか」 

 北朝鮮では反北ビラを糾弾する集会が全国で開かれたと報じられた。「ビラの存在は本来なら国内では隠しておきたいことですから、可視化させたことは異例」と前出の研究者は続ける。 

「ビラは平壌市内に落ちて、ひと騒動あったと聞いています。韓国から飛ばしているビラはそれほど遠くに行かないともいわれますが、北朝鮮北東部にあるハムフンから脱北した仲間から実際にハムフンで拾ったという話も聞きました。

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 北朝鮮では韓国ドラマを見たりして、住民の間では韓国にあこがれる人も出てきているといいますから、上層部が怖れているのはすっかり発展した韓国の姿が広く知られることです。 

北朝鮮には金一家体制を固守する以外の選択肢はありませんから、“南北統一”なんて考えていません。強硬派は適当なところで韓国を切りたがっていた。しかし、相手に非がなければ攻撃できませんから、ビラは好都合だったわけです」 

金正恩と金与正 ©getty

南北首脳会談20周年を記念して文大統領がしめたネクタイ

 南北共同連絡事務所が爆破される前日の6月15日は、2000年に初めて行われた南北首脳会談から20周年に当たる日だった。韓国では記念行事が行われ、文大統領は、故金大中元大統領が20年前に南北首脳会談でしめたというネクタイをして祝賀映像に登場した。 

 文大統領は、北朝鮮の談話や発する言葉などを巧みに分析することが得意とされていた。しかし、今はもう故金正日総書記時代ではない。 

 北朝鮮は開城工業団地と金剛山に軍を配備することを宣言し、黄海上での軍事訓練も再開すると表明した。 

 南北が合意した『板門店宣言』(2018年4月27日)と『平壌宣言』(同年9月19日)は事実上破棄されたも同然となり、韓国は南北関係において最大の危機を迎えている。 

 北朝鮮は韓国との関係をリセットすることで、米国を刺激し、11月の米大統領選挙以降、再び構築できるかもしれない新たな米朝関係に賭けたのか。米中の対立が深まる中、とりあえず中国からの支援があれば経済的なことは乗り切れるという、金正恩党委員長の思惑が透けて見える。