北朝鮮が16日、2018年に韓国との首脳合意で設置された南西部・開城工業団地内の南北共同連絡事務所を爆破した。金正恩朝鮮労働党委員長を補佐する妹の金与正党第1副部長が談話で「遠からず、無用な連絡事務所が跡形もなく崩れる悲惨な光景を見ることになるだろう」と予告して、わずか3日後のことだった。

 韓国国防部が同日夜に公開した、連絡事務所の庁舎が爆破で黒い煙を噴き上げて崩れる様子を映した映像を見ながら、私は、北朝鮮関係者が昨年春に漏らした不満を思い出していた。「南朝鮮は(18年4月の)板門店宣言以降、北南経済協力の推進を声を大きくして主張してきた。だが、口先だけで何もしない」。私は今回の超強硬策について「北が業を煮やした結果だ」と確信した。

6月16日、北朝鮮が爆破した開城の南北共同連絡事務所 ©朝鮮中央通信=共同

 私は昨年9月までの4年間、北朝鮮を担当する記者として北京で過ごした。赴任中には彼の国と中国を往来する人々と頻繁に接触した。そして今月、主に赴任期間に入手した北朝鮮の内部資料約1400件を基に、閉鎖国家の実相に迫ろうと試みた『金正恩の機密ファイル』(小学館新書)を上梓した。先の北朝鮮関係者は、北京で付き合った人物のひとりだ。

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「南朝鮮は約束を守らない」

 連絡事務所の爆破は、北京で定期的に会った別の北朝鮮当局者の発言も想起させた。この当局者は、戦前の従軍慰安婦問題や朝鮮半島出身の徴用工問題に通暁していた。当局者がある日、同伴していた部下に対して、こうした問題について、「日本は南朝鮮との間で合意を基に相応の責任を取った」と説く様子を見て驚いた。北朝鮮の公式メディアは「過去の清算」を巡り、そろって日本を激しく批判しており、この当局者の発言は異質に聞こえたためだ。

 韓国の文在寅大統領は慰安婦問題をめぐる15年末の日韓両政府間の合意を事実上白紙化した。日本政府が1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場を取る韓国人元徴用工問題で、韓国の最高裁判所は18年秋の判決で日本企業に賠償を命じた。

 先の北朝鮮当局者が強調したのは、次の点だった。