激務には慣れていた経験者すら、半年で心身を蝕まれてしまうほどの超絶ブラック企業、STYLE-RANGE(以下、スタイル社)。労基署からも違法な労働条件が認定されたのは、一体どんな職場なのだろうか。

「事情を知っていれば絶対に入社しなかった」と語る谷田真弘さん(仮名・都内在住)がインタビューに応じ、決意の告発を行った。

「安倍首相のいきつけ 赤坂・日本料理店は超絶ブラックだった」と併せてお読みください。[ http://bunshun.jp/articles/-/3908 ]

超過分の残業代は一切支払われず

―― スタイル社に入った経緯を教えてください。

谷田 私は調理の専門学校を卒業してから7年間、調理の仕事に就いてきました。スタイル社に入社したのは昨年の10月24日です。「瓢喜 香水亭 京橋店」に配属されました。そして、長時間労働で体調を崩して、今年の5月22日から休職しています。

インタビューに応じる谷田さん。都内在住の20代。 ©文藝春秋

―― 給料については、事前にどんな説明がありましたか?

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谷田 面接のときに前職では月給25万円だったと告げたところ、「じゃあ、26万円にしよう」と言われました。その時点では、残業代についての説明はありませんでした。当然、26万円にプラスして残業代が支払われるものと思っていましたが、実際は「26万円のうち、9万1000円は68時間分の固定残業代」として運用されていました。68時間を超えた分の残業代は一切支払われませんでした。

板前出身の中嶋社長 ©文藝春秋

―― スタイル社を選んだ理由は何だったんですか?

谷田 転職サイトのエージェントの方から魅力的な説明があったからです。「板前の経験もある若い社長が経営していて、働き方を変えていこうと頑張っています。会社の方針として、業界の慣習になってきた長時間労働を改善していきます」と。その理念にすごく共感しました。日本料理や料亭の仕事は、どこも長時間労働が当たり前になってしまっているので。

―― 実際に会社に入ってみて、当初の予想とはどう違いましたか?

谷田 これまで3つほど調理の職場を経験してきましたが、他とは比較にならないぐらい過酷でした。一番長かった職場でも1日13時間半程度でしたが、「瓢喜」は1日15時間労働はザラで、人手も全然足りてない。ちょっと異常な働き方です。入社前に聞いていた話とは全然違う時間帯でしたし、お給料もまったく違う契約でした。この内情を知っていれば、絶対他のところに行っていました。面接していた別の会社からも内定をいただいていましたから。

―― いまから振り返ると、ご自身の反省点はありますか?

谷田 面接の時点でシフトや労働条件について、詳しく質問をしておけばよかったと思います。新橋にできたばかりの新店舗にて面接が行われ、社長から「海外も含めて、もっともっと拡大していく」という話があったので、そうした雰囲気に飲まれてしまったところもありました。

―― 仕事内容としては、調理の中でどのような作業を担当していましたか?

谷田 毎朝8時ごろに出勤して、11:30の昼営業までは仕込み。ランチが終わると、夜の仕込みをやりながら賄いを作る。15分から30分ぐらいは休憩を取れる日もありましたが、予約の電話などが入ればその都度対応しなければいけません。夜の営業時間は17:30から22:00まで。退社するのは大体23時を過ぎていましたね。

 私がいた店舗の調理場には、私と料理長の2人しかいませんでした。なので、下っ端の人間がやるような、清掃や仕込みとか、もろもろの雑務、それから料理長の補佐に至るまですべて私がやっていました。

―― 与えられた仕事は、今後のキャリアを考えたら料理人としてスキルアップにつながる内容でしたか?

谷田 うーん……。広い意味では得になることも含まれていたのかもしれないですけど、特別に「これは勉強になるな」という作業は少なかったですね。例えば、魚なんかは下処理をした状態で仕入れることが多いですから、あまり練習にはなりません。