文春オンライン

ヒカキンの長時間労働から考える「ブラック企業」問題

速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ(左)=1980年生まれ。編集者。速水健朗(右)=1973年生まれ。ライター。 ©杉山秀樹/文藝春秋

ヒカキンの長時間労働にブラック企業を思う

おぐら 5月10日、厚生労働省が長時間労働や不払いなどで書類送検された企業、いわゆる「ブラック企業」の一覧を公式サイトで発表しました。
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/170510-01.pdf

速水 きっかけになったのは、電通社員の過労自殺だよね。電通に労働局の抜き打ち調査が入った絵面もショッキングだった。次に狙われるのはテレビ局だろうってまことしやかに言われていたし、同じく長時間労働が当たり前の出版業界もビクビクしてた。

おぐら エイベックスも勧告を受けましたけど、松浦(勝人)社長は「好きで働いていても法律で決められた時間しか働けなくなる」って、ブログで反論してました。
https://ameblo.jp/maxmatsuura/entry-12230798500.html

ADVERTISEMENT

速水 その言い分もわかるけどね。

おぐら とはいえ、経営者側の「好きで働いている」「自分のため」「夢の実現のため」といった理屈こそが、ブラック企業となる根本的な原因のひとつでもあるので、逆説的に説得力がありますね。それこそ「好きなことで、生きていく」のキャッチコピーを体現しているユーチューバーのヒカキンが、自ら「ヒカキン密着24時~YouTuberの裏側~」という動画を配信して、あまりの重労働かつ長時間労働が話題になってました。

速水 寝ないで動画を編集して、ブラックコーヒーを飲みまくってた。ユーチューバーってあんなに大変なのかって、視聴者が絶句してたね。

おぐら そんなハードワーカーのイメージが影響したのか、いまヒカキンはリポビタンDのCMに出ています。CMの中で、サッカーのカズに「夢は何ですか?」と聞かれて「世界中の人たちを笑顔にすることです」って答えてましたけど、いや、その前に自分の生活ちゃんとしろよ!っていう。
https://www.youtube.com/watch?v=MzGZC39nI5Q

速水 バブルの時代には、サラリーマンが企業戦士だなんて言われて、「24時間戦えますか」というキャッチコピーの栄養ドリンクのCMをやっていたけど。

おぐら 現代から見れば、単なるブラック企業ですけどね。

速水 でも、当時の若いサラリーマンたちは、ヤンエグなんて呼ばれて経済大国日本の躍進の立役者として誇りも持っていたと思うけど。

おぐら お金ももらっていたわけですよね。いまは、若い人たちは誇りもお金もあんまり持ってないですよ。

速水 誇りもお金もあるから働けるっていうのは、まさにユーチューバーの方か。企業戦士ではなく、いまやユーチューバーが労働者の象徴ってことだね。