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「才能と能力」から「効率とコスト」に時代をシフトさせた「働き方改革」

おぐら 企業戦士といえば、つい先日、飲みの席でベテラン雑誌編集者が「あのライターは締め切りには遅れるけど、原稿の出来は抜群だろ」って言ったら、20代の社員編集者が「原稿がつまんなくても、僕は締め切りを守る人に発注します」って断言してました。終電を逃して、夜中まで原稿を待つなんていう働き方はもう古いんですよ。

速水 ぐぬぬ。労働者保護という視点で見ると原稿の遅いライターって相当に悪質な存在になるのか。

おぐら もう徹夜したり、休日を返上してまで働く気ないんですよ。そういう意味では、政府の提唱する「働き方改革」って、少なくとも意識改革という点では成功してるんだなぁって思いました。

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速水 本当に、原稿の中身がつまんなくてもいいの?

おぐら だって、そもそも締め切りを守らないほうが悪いんじゃないですか。締め切り通りに原稿を上げてくれれば、そりゃあおもしろいほうがいいですよ。

速水 正論だ(笑)。まあ、時代はそういうムードだよね。

これも働き方改革? プレミアムフライデーに名物の「黒おでん」を食べ、消費喚起を促す加藤勝信働き方改革担当相(右から2人目)=3月31日、静岡市 ©時事通信社

おぐら かつては才能や能力のほうにプライオリティがありましたけど、いまは効率とコストが優先でしょう。たとえば雑誌の場合だと、昔は世の中に絶大な影響力があって、作り手にもプライドが生まれて、いろいろな見返りもありましたけど、いま死ぬ気で雑誌を作ったところで、たいして売れないし、話題にもならない。

速水 身もふたもない。

おぐら 続けていいですか? さらに給料は安いし、経費は使えないし。だったら、つまんない原稿だとしても、より早く仕事を片付けるほうに正しさを感じてもしょうがない気がします。

『やすらぎの郷』を見ているとホワイトな職場を想起する

速水 なるほどね。それって『やすらぎの郷』が提起している問題なのかもしれない。

おぐら どういうことですか?

速水 ほかのドラマと比べて『やすらぎの郷』が異様に見えるのって、台詞を微妙にとちっても、そのまま放映してしまっているから。全体にゆるいというか。

おぐら 高齢の役者の体調に気を遣って撮影時間自体を短くしているらしいです。つまりホワイトな現場ってことですよね。

『やすらぎの郷』制作発表記者会見に出席した(前列左から)有馬稲子、八千草薫、倉本聰氏、石坂浩二、浅丘ルリ子、加賀まりこ、五月みどり、(後列左から)松岡茉優、草刈民代、常盤貴子、風吹ジュン、藤竜也、ミッキー・カーチス、山本圭、名高達男。 ©時事通信社

速水 まあ、あと演者が大御所だから演出家がNGを出しづらいとかもあるかもしれないけど(笑)。でもゆるいからダメってことではない。むしろ、日本のドラマってかつてはこのくらいのゆるさで作られていたんだよってことだよね。細部を突き詰めれば良いドラマかっていうと、それはまた別でしょ。

おぐら 『やすらぎの郷』に速水さんはまってますもんね。

速水 うん。『カルテット』みたいな伏線とか細部まできっちりつくっていて、ネットでの深読み合戦を誘発するようなドラマもいいけど、『やすらぎの郷』くらいの抜け感があるものがあってもいいんだよ。

おぐら ホワイトな職場でもいいものはつくれるんだっていうことですか。

速水 会社経営でもコンテンツの制作でも、同じ事やってても経費ってなぜかどんどん増えていくんだよね。これは理屈では説明できないんだけど。