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育成出身第1号ホームランから牛たん屋に……元ソフトバンク・小斉祐輔の第二の人生

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/04
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 育成ドラフト入団選手がスターダムにのし上がるというのは、今やホークスに限らずプロ野球界全体を見渡しても珍しくない。

現役時代の小斉祐輔 ©時事通信社

 育成選手という制度。その初めてのドラフト会議(育成ドラフト)が行われたのは2005年の冬のことだった。

 現在と違い、第1回は支配下ドラフト会議とは別の日に行われた。同年12月1日にプロ野球の実行委員会が東京都内で行われ、育成のために支配下選手枠(1球団70人以内)以外で選手を獲得できる新制度「育成選手枠」の導入が正式決定され、その場で「育成ドラフト」が行われて、ホークスをはじめ中日、巨人、広島が計6人の新人選手を指名したのだった。

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 そのホークスの1期生で強打の野手だった元鷹戦士を思い出して貰いたい。

 野手で初の育成出身支配下登録&これまた育成出身初安打&またまた育成出身初本塁打&さらに育成出身初金銭トレードと初モノづくし、小斉祐輔さん(37)にスポットを当てたいと思う。

 彼はプロ1年目の5月に支配下登録を勝ち取り2年目に初安打、3年目に初本塁打を放っている。そして、東北楽天ゴールデンイーグルスで現役を退いたのが2015年だった。

 そんな彼が、プロ野球人生をスタートさせた福岡に移住したという話を風の便りに聞いた。しかも食のレベルが全国的にも高いと称される博多のど真ん中で5月に飲食店を始めたというではないか。

 美味いモノを欲する筆者は思わず会いに行ってきた(笑)。

包丁を握る小斉さん ©加藤淳也

料理人として再スタートを切った元鷹戦士

 ビルの2階のこぢんまりとした雰囲気の良いお店に入ると「いらっしゃいませ!!」という感じの良い出迎えの声。紛れもなく小斉祐輔さんである。現役時代の勇ましさはどこかに消え、穏やかな表情で下ごしらえをしていた。

 小さなカウンターと座敷と個室。広くないとはいえ、人を雇わずに全て一人でやり繰りしているという。

――オープンしてからこれまで誰も雇ってないんですか?

「はい、本当は4月に開店したかったんですけど、新型コロナウイルスの影響をうけて準備が出来なかったこととか、全国緊急事態宣言とかがあったので、その後のオープンに変更になったというのもあるんです。雇うだけ雇って忙しいときだけ来てって都合の良い事も言いたくなかったので、いっそのこと雇わないという選択をしました」

――現役時代からすると顔が優しくなりましたよね。

「それ結構言われますねぇ。まぁ今は今で勝負の世界ではありますけど、現役時代は結果を出さないと本当に終わると思っていたので顔が怖かったのかもしれませんね。今も怖かったらお客さんが嫌がりますよね(笑)」

穏やかな表情の小斉さんが切り盛りするのは<博多 牛や たん平> ©加藤淳也

 野球通ならば耳にしたことがあるかもしれない。あのイチロー氏も通い詰めたという神戸の名店の屋号にそっくりだが、そちらで3年ほど修行して今回暖簾分けが許されたらしい。小斉さん曰く、全国でも唯一の暖簾分けとあってプレッシャーがのし掛かっているそうだ。

「元々僕はたん平の味が好きで神戸に行った時は立ち寄る一般客の立場だったんですけど、いつしか働かせて貰うようになって、牛たんの事も技術的な事も惜しみなく教えてもらって暖簾分けまでさせてもらって感謝しかないですね」

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