2020年7月24日がやってきた。待ち望んだ日のはずだった。
暗い世の中のせいで、忘れちゃってる人も多いんだろうな……。本来ならば今日の午後8時から、東京オリンピックの開会式が新国立競技場で行われ、世界中の熱い想いが日本に向けられるはずだった。
もともとの野球の競技日程では7月29日に福島あづま球場で初戦を迎えて、その後は横浜スタジアムでオープニングラウンドを戦う予定だった。そして、
果たして稲葉篤紀監督はどんなメンバーでこの舞台に臨むつもりだったのだろうか。
プレミア12で持ち味を発揮したホークスの侍たち
悲願の金メダル獲得へ、侍ジャパンは着実なステップを踏んできた。その成果が最も現れたのが昨年の秋に行われたプレミア12優勝だ。侍ジャパントップチームとしては2009年の第2回ワールドベースボールクラシック以来じつに10年ぶりとなる野球世界一に輝いた。
稲葉監督は先日7月17日に契約を延長した。その際に東京五輪の選手選考について「プレミア12の選手たちが土台になるということは変わりない」と話している。
プレミア12では28人が登録されていたが、東京五輪では24人に減るだけに難しい絞り込みを行うことになる。
ホークスからこのプレミア12に、侍ジャパンでは最多となる6選手が選ばれていた。高橋礼、甲斐拓也、松田宣浩、周東佑京、そして当初は千賀滉大が名を連ねたが辞退して代替選手として嘉弥真新也と甲斐野央が代表入りした。
個性豊かなホークスの侍たちはこの大舞台でそれぞれが持ち味を発揮した。全国の野球ファンにその存在を知らしめたのは周東だった。なかでもZOZOマリンスタジアムで行われたスーパーラウンド初戦のオーストラリア戦では二盗、三盗からのホームへの好走塁でその俊足が侍ジャパンを救った。プレミア12ではすべて途中出場ながら4盗塁を決めて大会の盗塁王を獲得した。
松田はその明るさと元気の「熱男」でチームを盛り立てた。変則フォームの高橋礼と嘉弥真、捕手として経験値をどんどん積んでいる甲斐、そろそろ右肘痛からの復帰が見えてきた甲斐野もぜひ東京五輪でも見たい選手たちだ。
千賀は昨シーズン両リーグトップの180回1/3を投げ、クライマックスシリーズや日本シリーズでもフル回転して、疲労が蓄積していたことを考慮しての辞退だった。今年はキャンプ中に右前腕の張りを訴えて出遅れていたが、シーズンが開幕してまもなく先発ローテに復帰して投球を続けている。今季初登板だった7月7日のイーグルス戦では自己最速タイの161キロをマークした。開幕延期の自主練習期間中に新フォーム習得に取り組んだが、現在は元に近い形に戻ってきた。まだ道の途中で試行錯誤しているようだが、抜け球も減りつつある。体の開きを抑えて、最大の武器であるお化けフォークがしっかり落ちる投げ方を取り戻せば、もう1ランクも2ランクもレベルアップした千賀を見ることが出来るだろう。
オリンピックの舞台に必要な男
東京五輪で見たい鷹戦士。肝心な彼を忘れてはいけない。
今シーズン絶好調の柳田悠岐だ。
開幕前から打ちまくっていた。6月の練習試合でも12球団最多の6本塁打。そしてペナントレースでも勢いが止まる気配がない。
強烈だったのは7月18日、京セラドームでのバファローズ戦で放った今季9号本塁打だ。両チーム無得点の6回2アウト、左腕の田嶋大樹が投じた6球目の真ん中の球をライト方向へ高々と打ち上げた。ぐんぐん伸びる。まだ伸びる。柳田は打球を見失った。
果たしてジェットエンジンでも積んだのか。その白球は京セラドームの天井付近にあるスーパーリング部分の照明あたりに直撃。フェアゾーンにぽとりと落ちたが、認定ホームランとなった。当たった箇所は高さ40mほど。ビル9階に相当する。推定飛距離は150mと言われているが、実際のところは分からない。ドーム天井直撃弾といえば、1990年6月6日に東京ドームの中堅上のスピーカーに当てたラルフ・ブライアント(近鉄バファローズ)が思い出される。時代を越えて語り草となるシーンだが、この一発も間違いなく新たなギータ伝説の一つとして刻まれた。
今年の柳田はとにかく打球が飛ぶ。6月20日のマリーンズ戦(PayPayドーム)で放った今季1号もすごかった。バックスクリーンの黒い幕を越えて中段に飛び込んだ。現在、我々メディアはグラウンド取材が出来ないために練習もスタンドから選手の様子を見るのだが、この翌日に柳田が数名のチームメイトと「昨日のは、横浜スタジアムだったら当たっとった」と談笑していた。
もう5年前になる。2015年6月3日のベイスターズ戦で三浦大輔から放ったハマスタ・スコアボード破壊弾。自身の手応えではそれと匹敵していたというのだ。
また、今季は「これが入るの?」という芯を外されてこすったような当たりでも外野フェンスを越えていく。「みんなが驚くホームランを打ちたい」と話していた柳田にとっては、そんな一発もまた格別だ。