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「どうやら脳腫瘍のようだ……」思わず息が詰まった瞬間

 当然、私も気になって気になって、いろいろな人脈をたよりに横田の状態を調査するようになった。そうした中で、ずいぶん前に複数のルートから同種の情報を耳にした。

 それが「どうやら脳腫瘍のようだ……」、これだった。

 最初にそう聞いたとき、私は思わず息が詰まって、しばらく一言も発することができなかった。ほどなくして口から漏れたのは、「ああ」という言葉にならない声だった。

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 しかし、そんな横田についてのショッキングな情報も、当時は確固たる証拠がなかったため、それを公言できるわけもなく、悶々とした不安を抱えながら、ただひたすら球団の発表か、あるいは確度の高そうなニュースを待つしかなかった。阪神という球団は昔から水面下の情報が簡単にマスコミに漏れるところがあって、そういう情報管理の甘さがファンとしては嫌だったんだけど、横田については早く本当のことを知りたかった。脳腫瘍を信じたわけじゃない。信じたわけじゃないからこそ、正確な情報がほしかった。

 その結果、ある時期から阪神球団に対する不満もつのっていった。なんらかの重病であったとしても、広島の赤松真人のように正式に表明したほうが、妙な噂もおさまるだろうし、大勢のファンが横田のことを応援できるだろう。そう考えたこともあった。

沈黙を貫いた球団とマスコミのファインプレー

 だけど今回、横田の脳腫瘍からの復帰がわかったことで、そんなことは一気にどうでも良くなった。今はとにかく彼の完全復活を応援したい気持ちでいっぱいだ。

 球団とマスコミが沈黙を貫いたことも、結果論にすぎないのだが、今では見事なファインプレーだったように思う。もちろん、ファンの私はずっと不安だったけど、当の横田とその関係者のみなさんは、もっともっと、もっともっと、苦しかったはずだ。

 もしも横田の病状が寛解に至る前に、球団が闘病中であることを発表していたら? もしも一部のマスコミが抜け駆けして、真偽があやふやな情報を報じていたら? 

 最近そんなことを考えるのだが、もしそうなっていたら横田は治療に集中できなかったかもしれない。雑多な喧騒が横田を取り巻き、穏やかな環境を奪っていたかもしれない。

 そう思うと、やっぱりこれで良かったのだ。脳腫瘍が寛解に至ったという圧倒的な好結果によって、すべてのプロセスが正解に転じた。すべてが、これで良かったのだ。

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