この文春野球コラムペナントレースという企画に阪神担当として参加して良かった、と思えたことのひとつにランディ・メッセンジャーの件がある。

 私は去る5月12日に『マスコミは迷わずメッセンジャーを「エース」と書くべきだ』というタイトルのコラムを文春野球で発表させていただいたのだが(詳細は当該コラムをご覧ください)、これについて放送局や新聞等で野球報道に携わる知人のうち何人かから「言いにくいことをよく書いてくれた」といった趣旨の感想をいただいた。やはり野球マスコミの一部においては、メッセンジャーが外国人投手だからという理由で、彼を「阪神のエース」という呼称で報じることにちょっとした抵抗を感じるところもあったという。いくらメッセンジャーが好成績を残そうが、同時代に能見篤史や藤浪晋太郎が活躍しているなら、彼らのほうを「エース」と呼びたいと思ってしまうのは日本人の性なのだろう。

 しかし、その当該コラムが影響したというのはさすがにないだろうが、今季に限ってはシーズン途中から「エース・メッセンジャー」と表記するマスコミがあきらかに増えたように思える。なにしろ、今季の阪神投手陣におけるメッセンジャーの貢献度は例年以上に際立っている。ここまで11勝5敗、防御率2.46。奪三振数はセ・リーグトップ、さらに巨人・菅野智之らと最多勝争いも繰り広げてきた。もしも彼がいなかったら、今ごろ阪神はAクラスすら危うかったかもしれない。まさに大エース級の働きである。

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ここまで大エース級の働きを見せていたメッセンジャー ©文藝春秋

メッセンジャーがここまで長期で戦線離脱するのは初めてのこと

 と、そんなことを思っていた矢先、衝撃的なニュースが飛び込んできた。

 8月10日の巨人戦で、そのメッセンジャーが右足の腓骨を骨折するというアクシデントに見舞われ、長期の戦線離脱を余儀なくされたのだ。

 もちろん、これはチームにとって大きすぎる痛手だろう。報道によると本人は10月のCSまでには復帰したいと語っているらしいが、だからといって現時点で楽観視することはできないため、今季絶望の可能性もある。阪神の戦力ダウンは計り知れない。

 また、私にとっても想像以上にショッキングな出来事だった。

 よくよく振り返ってみれば、メッセンジャーが阪神の先発ローテーションに定着した2011年以降、彼がここまで長期で戦線を離脱するというのは初めてのことだ。

 その2011年から現在に至るまで、阪神の先発投手陣の変遷を辿ってみると、「能見、メッセンジャー、岩田稔、スタンリッジ、久保康友」の時代があって、やがてスタンリッジと久保が退団し、能見が次第にベテランとなり、岩田も好不調の波が激しく、そこに新たに藤浪晋太郎が入ってきたものの、彼もやがて大きな壁にぶち当たり、今年は秋山拓巳がようやく頭角をあらわすなど、本当にいろいろな変化が起こった。しかし、そういう変遷の中にあってメッセンジャーだけはずっと変わらない。彼だけは大きな故障もなく、大きな波もなく、持ち前のタフネスさによって大量のイニングを食ってきた。

 そんな不変の男が長期不在となる――これは阪神の現役選手の多くが初めて経験することではないか。少なくとも、投手陣の中で彼の不在時代を知っているのは能見や岩田、藤川球児、安藤優也など、今や数少なくなってしまった。彼が元気に投げているうちに、阪神投手陣はいくつものマイナーチェンジを繰り返してきたのだが、それがマイナーチェンジという小さな変化で済んだのは、メッセンジャーという不動の一角があったからだ。