1ページ目から読む
2/4ページ目

2013年、彼女との撮影にハマった写真集『私生活』

 その成果は2013年、写真集『私生活』として結実する。ありのままの安達祐実さんが垣間見られると、刊行後は大きな話題となった。

「安達さんを撮ることは、僕に転機をもたらしてくれました。ひとりの人間を腰を据えて撮り続けることで、『写真表現とは何か』、『人を撮るってどういうことか』などを、改めてしっかり考えさせられたのです。

「我旅我行」より

 撮影手法の実験と実践の場にもなりました。最初はデジタルカメラで撮っていたんですが、途中からフィルムカメラにしてみました。そのほうがテイストがしっくりきそうだったので。

ADVERTISEMENT

 あれこれ試してみても、被写体の力がめちゃくちゃ強力なので、いずれにせよいい写真がどんどん上がってくる。撮る側として、これに勝る喜びはない。それでどんどん彼女との撮影にハマっていきましたね」

桑島智輝さん ©️山元茂樹・文藝春秋

 安達さんにとっても、桑島さんに撮り続けられることは大きな意味があった。小さいころから「見られている」のが常態だった安達さんには、素の自分をさらけ出せる場はほとんどなかった。

 でもカメラの前に立つときだけは、素の姿を撮りたい、できるだけ自然のままでいてほしいと要望される。いつしか、撮影の時間が大好きになっていったという。

「カメラの前でだけありのままの自分を生きられるって、僕らにはちょっと想像し難い感覚ですよね。それがかなりハードな生き方なんだろうということは想像できますけど。

「我旅我行」より

 『私生活』プロジェクトのために僕は、安達さんのもとへ通った。安達さんからすればそれは、『素のままでいていい時間』を確実に得られるということを意味した。撮影自体が彼女の救いになった面はあると思います。

 撮る側の僕にも撮られる側の彼女にも、写真が大きなプラスをもたらしてくれたのだと思いますね」

 だからだろう、『私生活』プロジェクトが終わったあとも、ふたりの撮影行為は自主的に続けられていった。写真を媒介として始まったつながりは、日を重ねるごとに強く、太くなった。

 そうして2014年、ふたりは結婚するに至った。これは写真が取り持った縁、と言えるかもしれない。