胸を張り、脚を開き、カメラの前に屹立する裸の女たち。堂々としたその姿は神々しいほどの強さと輝きを放っている。1950年代からファッション界で活躍したヘルムート・ニュートンの写真は、その過激さと力強さで世界に大きな衝撃を与えた。

 12月11日(金)より公開中の『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』は、革命家としての彼の仕事を紹介するドキュメンタリー。監督はこれまで100本以上のドキュメンタリーを製作してきたゲロ・フォン・ベーム。ニュートンとは生前から親しくつきあい、彼の妻ジューンや財団の全面的な協力のもと本作を作りあげた。タイトルどおり、映画は彼の被写体となった女たちの証言から構成される。

ゲロ・フォン・ベーム監督

「取材対象を女性に絞ることは最初から決めていました。そもそもこの映画を作る理由の一つが彼女たちの証言を撮るためでした。というのも、これまで彼の業績については男性の研究者らが様々に語り、書いてきましたが、そこにはなぜか女性の存在が欠けていた。だから彼の被写体であった美しい女性たちにこそ声を与えたいと思ったんです。彼女たちはどんなふうにヘルムートの撮影について語るのか。彼に撮影されていたとき、自分を『被写体』として感じていたのか、あるいはしばしば彼の写真がそう評されたように『物体』として扱われたと感じていたのか、直接彼女らに聞いてみたかったのです」

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 出演は、女優のシャーロット・ランプリング、イザベラ・ロッセリーニ、モデルのグレイス・ジョーンズら。これほど豪華な証言者を集めるには相当な苦労があったのでは。

「実は全然大変ではなかったんです(笑)。というのもほとんどは私の友人で、以前一緒にドキュメンタリーを作った人も多いので。取材はとてもリラックスした雰囲気のなか進みました。誰もが彼について語りたいと強く思っていて、心から彼を懐かしんでいました。それだけ彼自身も、その撮影現場もユーモアに溢れていたのでしょう」

 とはいえ今この映画を見るうえで#MeToo運動の影響は無視できない。実際、女性の肉体を極端に性的な存在として写し出す彼の写真は、当時から女性の表象をめぐる様々な問題を提起してきた。

「彼が写真家として活躍した70年代は、性的な革命が起き、ヌードがタブーではなくなってきた時代。そのなかで、彼は挑発者としてファッション写真に革命を起こしたわけです。またジェンダーに関しても彼は先鋭的でした。女性の中にある男性的な部分をも写すことによって、何が女性的で何が男性的か、という問いを大胆に投げかけたのです。そうした彼の写真を今の時代に見るとどうなるか。もしかして異論が出るかもしれない。だからといってそれらを隠してしまうのではなく、オープンな状態にしたうえで議論をするべきです。映画では、当時テレビ番組でヘルムートと対面したスーザン・ソンタグが彼の写真を厳しく批判し、イザベラも『彼の写真はマチズモと関係している』と断言します。どちらも実に興味深い発言ですが、それを受け入れるには、発言がなされた文脈や歴史的な背景をしっかりと踏まえることが重要です」

 映画では、ナチス政権下のドイツに生まれたユダヤ人としての激動の人生も辿る。

「彼は勇気ある人間です。とても辛い経験をした人であり、写真において多くのことを達成した人物でもある。ときにはルールを大胆に破壊し物議を醸すことも恐れませんでした。彼の精神が今の若いアーティストにインパクトを与えてくれたらと望んでいます。これはヘルムート・ニュートンを祝福する映画でもないし、彼を弁明する映画でも、批判する映画でもない。ただあるがままを見せるだけ。そこから先の議論や判断は見た方にお任せしたいと思います」

Gero von Boehm/1954年、ドイツに生まれる。主にドイツのTV局で放送するドキュメンタリーの製作・監督を手がけ、女優のイザベラ・ロッセリーニやミヒャエル・ハネケ監督についてなど100本以上の作品を発表している。

INFORMATION

映画『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』
https://helmutnewton.ayapro.ne.jp/