いつかは華やかなスポットライトを
シーズンも終盤。諦めそうになる自分を奮い立たせながら、機会を待った。チャンスが訪れた時には、その好機を逃すまいと準備を重ね、その日を信じ若者は待ち続けた。プロ初スタメンを言い渡された9月28日のバファローズ戦(ZOZOマリンスタジアム)は試合開始直前で無情の雨天中止。「もっていないのかなあ」と前年の出来事も脳裏に蘇り、肩を落としそうになったが自分を奮い立たせ、前向きに準備を続けた。
すると翌29日もスタメン。この機を絶対に逃すまいと燃えた。三回二死走者なしの場面。「初球は絶対に振ってやろうと決めていた」というように少しボール球ながら果敢にバットを出した。追い込まれても気持ちで負けない。「どんな球でも食らいついて前に飛ばしてやろうという気持ちだった」というガムシャラな思いで内角のストレートにバットをしっかりと合わせると打球は中前に抜けていった。プロ入り初ヒット。すかさず自慢の足で二盗も記録した。
「ここからです。大事なのはここからだと思います」
独立リーグである四国アイランドリーグを経て育成枠でプロ入り。入籍したばかりの妻を実家に戻し、単身寮生活で自分を磨いてきた。そしてそこから2年でのプロ入り初ヒット、初盗塁。この日は残念ながら華やかなスポットライトを浴びることはなかったが、本人にしか分からない日々の積み重ねの中で手に入れた特別な思いがあったはずだ。試合後、テレビカメラに囲まれながら喜びの会見を行うマレーロを横目に、私はずっと174センチ、73キロと小柄な大木が見せた執念の中前打に想いを馳せていた。この日をスタート地点にして、いつかテレビカメラに囲まれる日が来るのを私は信じている。
梶原紀章/千葉ロッテマリーンズ広報担当
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