〈「お父さんの職業は?」と、幼いころに誰かに尋ねられると、「お父さんは、会社員。お母さんは、ふつうのお母さん。いつもお家にいる」と、私は答えていた。(略)

 とにかく、当時の私の願いは、ただひとつ。目立つことなく、落ち着いた両親のいる穏やかな家族の子であることだった。ところが、そんなささやかな願いは成就することもなく、父親が社会の掟を破る度に、私たち家族のあり方は世に晒され続けた。(略)

内田也哉子さん 写真:伊藤彰紀(aosora)

 やがて、2018年9月に母が他界し、その半年後に父が逝き、自分にとって大ごとだったはずの人生の苦悩があっさり行き場を失い、40年以上かけてじっくり育ってしまった「ファザー&マザー・コンプレックス」は到底消化できず、ポツンと取り残された。それ以降はとりわけ、私が人前に駆り出される時は、我がいびつな家族のエグザンプルの提示を求められる機会が増えていった〉(内田也哉子・中野信子『なんで家族を続けるの?』文春新書 内田也哉子による「はじめに 晒された家族」より)

 樹木希林さんと内田裕也さんという型破りな夫婦の一人娘に生まれ、家族団欒を知らずに育った内田也哉子さん。自身は19歳で本木雅弘さんと結婚、3児の母として家族を最優先に生きてきました。一方、メディアで見ない日がないほどの活躍をする脳科学者の中野信子さんは、人知れず巨大なブラックホールを抱えてきたといいます。その原点は両親の不和の記憶でした。

中野信子さん 写真:塚田亮平

 そんな二人の共著『なんで家族を続けるの?』(文春新書)がこの度、刊行されたのを記念して、4月11日(日)午後2時から、著者二人によるオンライン配信トークイベントを無料で開催します。

 二人の出会いは2020年1月、ともに連載する「週刊文春WOMAN」の創刊1周年トークイベント。すっかり意気投合した二人は、舞台を「週刊文春WOMAN」誌面に移して、このコロナ禍の一年、家族についての対話を続けてきました。それも編集者の同席を断り、二人きり、一対一での対話で。

『なんで家族を続けるの?』(文春新書)

話題にあがったテーマは

「樹木希林の結婚生活は生物学的にはノーマル?」

「血のつながりは大事なのか」

「貞操観念はたかが150年の倫理観」

「知性は母から、情動は父から受け継ぐ」

「幸せすぎて離婚した希林がカオスな裕也にこだわった理由」

「幼くして家庭の外に飛ばされた私たちは」

「脳が子育てに適した状態になるのは40代」

「惰性で夫婦でいるのがしっくりくる」

 など。

 家族のあり方が変容している時代に、なぜ彼女たちが結婚を選び、家族を続けているのか。二人の家族体験を踏まえた、現代の家族論が展開されています。

 刊行を記念した今回のトークイベントでは、なぜ二人がいま家族について語ろうと思ったのか、書籍完成にいたるまでの裏話をまじえながら語ります。当日は視聴者からの質問にも答える予定です。

【出演者】

内田也哉子(うちだ ややこ)
1976年東京都生まれ。樹木希林、内田裕也の一人娘として生まれ、19歳で本木雅弘と結婚する。エッセイ、翻訳、作詞、ナレーションのほか音楽ユニットsighboatでも活動。著書に『会見記』、『BROOCH』(ともにリトルモア)、樹木希林との共著『9月1日 母からのバトン』、翻訳絵本に『ピン! あなたの こころの つたえかた』(ともにポプラ社)、『こぐまとブランケット 愛されたおもちゃのものがたり』(早川書房)などがある。

中野信子(なかの のぶこ)
1975年東京都生まれ。脳科学者。東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』、『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。

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なんで家族を続けるの? (文春新書)

内田 也哉子 ,中野 信子

文藝春秋

2021年3月18日 発売