不安を吹っ切った野村忠宏の言葉
「やる気スイッチが入りました。それまでネガティブな性格で、試合になると不安に負けそうになっていたけど、マイナスなことは考えない性格に変わったんです」
鋼の心を手にした清水は、高3で全国優勝を果たし、自分にリベンジ。関西大学2年の時に日本選手権で初優勝を遂げると、国際大会でも勝利をおさめ、一気に世界の頂に駆け上がった。
その一方、頂は海図のない世界。目に見えないプレッシャーに苦しめられた。加えて、いつか転落してしまうのではないかという不安が、体にべったり張り付いた。そんな時、会社の先輩の柔道家・野村忠宏に「プレッシャーは無理に避けようとしてはいけない。友達になるんだ」と声を掛けられた。
「五輪で3回も金メダルを獲っている野村先輩でもプレッシャーはいつもあると聞いて、五輪にまだ出たことがない私の不安なんて、米粒みたいなもんだって。吹っ切れました」
野村からもらった言葉は、初出場の東京五輪でも生きていた。そうでなければあれほど繊細で力強い演武はできない。五輪前の取材中、清水は何度も同じ言葉を繰り返した。
「五輪という大きな舞台で、私の演武を通して、世界中の人々に空手の魅力を伝えることができたら最高です」
銀メダルに終わったが、清水の立ち振る舞いから空手の魅力に目覚めた人は少なくないように思う。少なくとも私は今、近場の空手道場を検索している。
