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深澤弘アナは僕らの“野球の先生”だった 「いまグラウンドで何が起こっているか」が瞬時にわかる名実況

深澤弘アナは僕らの“野球の先生”だった 「いまグラウンドで何が起こっているか」が瞬時にわかる名実況

2021/09/14
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「いまグラウンドで何が起こっているか」が瞬時にわかる名実況

 深澤アナの実況の大きな特徴は的確な状況描写にある。ピッチャーが投げた瞬間に「投げた」、打った瞬間に「打った」、結果が出た瞬間に「空振り三振!」「アウト!」「レフト前ヒット!」「ホームラン!」と小気味良く言い切るため、いつの間にかプレーが流れるようなことがまずない。解説者とのお喋りの合間にも回数や点数、アウトの数、出塁状況、投手と打者の名前を随時盛り込んでくれるので「いまグラウンドで何が起こっているか」が瞬時にわかる。当時から他のニッポン放送の実況アナにもそのあたりのルールは徹底されていると感じたが、おそらく深澤アナの影響が大きいと思われる。

 それだけ描写に長けていても、深澤アナの喋りは決してやかましくはなく、余程の場面でもない限り絶叫口調にはならなかったのが子供心にも好感が持てた理由。でもここぞの場面ではキッチリ盛り上げるという緩急のつけ方が絶妙で、臨場感が満点なのだ。筆者は横浜スタジアムのスタンドにいる時もその試合が深澤アナの実況だとヘッドフォンでラジオを聴きながら観戦したことが何度かあるが、同じ経験をした人も少なくないはず。テレビの野球中継の音声を消してニッポン放送を聴いた人もまた然りだろう。

今際の際まで「アナウンサー」を貫く

 解説者とのやりとりも楽しかった。ショウアップナイター開始時からの名コンビで、飄々とした喋りの関根潤三。若い頃は今以上に毒舌だった江本孟紀。強面で声も野太い土橋正幸。軽妙な語り口でベンチレポートも担当した森中千香良。ひと癖もふた癖もある解説陣の魅力を引き出すのも深澤アナの役割だった。また、年に1回ビートたけしがゲスト解説を務める日は必ず深澤アナが担当していた。人気絶頂期のたけしのマシンガントークを受け止められる実況アナウンサーは深澤さんしかおらず、たけし自身も深澤アナ相手じゃなければ出演しないと語ったという(追悼特番の松本アナのコメントより)。

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 冒頭で触れた、訃報が流れた直後のニッポン放送『ショウアップナイタープレイボール』で、松本アナは亡くなる直前の深澤アナが“関根(潤三)さんはどこにいるんだ”“もう東京ドームに間に合わない”とうわ言のように漏らしたというエピソードを紹介した。氏は今際の際まで「アナウンサー」であることを貫いたのである。

深澤弘アナは僕らの“野球の先生”だった 「いまグラウンドで何が起こっているか」が瞬時にわかる名実況

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