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 これらの記事と比べると、本来の目的である日米首脳会談に関する記事は多くのものが表面的な解説にとどまり、ニュースとしての価値がそれほど高くなかったことを示している。

 いくつか目を引く記事も、北朝鮮の脅威に日米がともに対抗することを約束し、北朝鮮のミサイルを撃ち落とすために米国の武器をたくさん買うはずだ、というトランプ大統領の発言を報じたもの(Trump, in Japan, talks tough on the ‘menace’ of North Korea, trade, Washington Post, Nov. 6)や、日本が不公正で閉鎖的な貿易をしていると指摘するもの(英メディアだがFinancial TimesのDonald Trump accuses Japan of unfair trade practices, Nov. 6)がある程度である。トランプ大統領が拉致被害者の家族と面会したのは、AP通信がカバーした記事を転載するメディアがほとんどであった(Japan families of N. Korea abductees meet Trump, seek help, Washington Postなど)。

拉致被害者の家族と面会したトランプ大統領ら ©JMPA

アジア歴訪の本命は米中会談

 トランプ大統領の訪日(と訪韓も含む)で重要なイシューとして挙げられた北朝鮮問題については日米、米韓の立場にはそれほど大きな違いはなく、この訪問で何かが変わる訳でもないという見通しがあった。また、TPP離脱以降の日米の間の貿易問題は麻生副総理とペンス副大統領のレベルで議論が進んでおり、首脳会談で大きな進展があるとは期待されていなかったこと、米韓のFTA再交渉についても同様だったこともあり、米国での関心は非常に薄かった。

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 さらにはトランプ大統領がわざわざフィリピンまで足を延ばすのに東アジアサミットには出席しないという予定が発表され(最終的には出席することになったが)、今回のアジア歴訪にどのような意味があるのか、何を達成しようとしているのかが明白ではなかった、というメッセージ性の欠如ということもあるだろう。

 今回のトランプ大統領のアジア歴訪の本命は、日韓を訪れた後の米中会談であることは間違いない。日本とは対立するアジェンダがそれほどなく、韓国とはTHAAD配備問題や米韓FTAの見直しなどの課題はあるが、これらは最大のテーマである北朝鮮問題の解決から見れば二次的な問題だ。日本と韓国はアメリカと歩調を合わせているという確認をした後で中国に乗り込み、党大会を終えて権力集中を成し遂げた習近平主席と会談し、北朝鮮制裁の履行を強化し、北朝鮮の態度を変化させ、交渉のテーブルに着かせることが目的であろう。また、トランプ政権の最大の課題である貿易赤字の解消にしても、中国との貿易赤字が圧倒的に大きいだけに貿易問題に関しても米中会談で何を獲得するかが重要になってくる。

両首脳は5度目の直接会談だった ©JMPA

 トランプ大統領の訪日関連の記事が質、量ともに乏しいのは、日米関係の弱さと言うよりも強さの表れなのかもしれない。トランプ大統領が就任してから最も多く電話会談をした相手は安倍首相であるし、大統領に当選した直後にトランプタワーで面会したことも含めれば、既に5度目の直接会談であり、そのほかにも国連などの国際会議の場で何度も日米会談は行われている。

 日米間の最大の懸案である北朝鮮問題に関しては継続的に議題になっているし、貿易問題については麻生-ペンス交渉で対応している。こうした重層的で親密な2国間関係を築いてきたからこそ、今回の首脳会談は特別なものではなく、「いつもの」会談であり、普段と違う「トランプ大統領の初訪日」という側面に注目が集まったものと思われる。