文春オンライン

2030年、私たちはどのようなクルマに乗っているのか

『自動車会社が消える日』著者が東京モーターショー2017から予測する

2017/11/30
note

もう一つの潮流「自動運転」でクルマの個室化が進む

「東京モーターショー2017」で明らかになったのはEVシフトだけではありません。もう一つの大きなトレンドがあります。それが自動運転なのです。

 これまで挙げてきた2台とも、EVであることよりも、自動運転車という点を強くアピールしています。もうEVであることは当然で、それに人工知能を駆使した自動運転という要素が求められている。

 自動運転にはレベル1からレベル4まで段階がありますが、現在でも高速道路といった一定の条件であればアクセルとステアリングの操作をクルマに任せるレベル2の自動運転車は、すでに発売されています。そればかりか、ドイツのアウディは、クルマが運転の主役となるレベル3の自動運転車を2018年から市場に投入する計画です。

ADVERTISEMENT

 ですから、各社とも完全自動運転となる「レベル4」を意識したコンセプト・カーを出展していました。

 自動運転になることでクルマはどう変わるのか。私は「クルマの個室化」が進むと見ています。運転から乗員が解放されるため、居心地のいい空間であることが、より重視されるようになる。「動くリビングルーム」「動く会議室」となっていくでしょう。

フォルクスワーゲン「I.D BUZZ」 ©三宅史郎/文藝春秋
「I.D BUZZ」の車内 ©三宅史郎/文藝春秋

 これはフォルクスワーゲン(VW)が往年の名車「ワーゲンバス」をEVとして復活させたもので、「レベル3」の自動運転機能も採用されるとか。前述のように「レベル3」では運転の主体が人間ではなく、クルマです。ドライバーは緊急時をのぞき、運転をクルマに任せて、同乗者と会話することができるようになるわけです。

 VWは自動運転の時代に向けてバスを復刻したわけですが、さすがに鋭い。というのも、いまの社会で自動運転車のニーズが最もあるのは、たとえば高齢化の進んだ山間地などだと見ています。住人が少ないので公共交通機関も整備されておらず、高齢者の「買物難民」が少なくない地域です。

 そうした地域では「ワーゲンバス」のようなキャパシティに余裕があるモビリティ(移動手段)が求められる。今後、Uberのようなシェアリング・サービスが普及したら、このバスのようなクルマが主流になるかもしれませんよ。

デザイン重視派に応えるカスタマイズ可能なクルマのスウォッチ化

 一方で、クルマを所有したいという層は確実に残るでしょうが、そこで重視されるのが個性、すなわちデザインです。もはや電動なのか、内燃機関なのかといった「パワートレイン」(クルマの動力源)は差別化要因にならず、デザインがクルマ選びの決め手になるでしょう。 

スマート「smart vision EQ fortwo」 ©三宅史郎/文藝春秋

 この「smart vision EQ fortwo」を発表したSmartという企業は、もともとダイムラー・ベンツと、スイスの時計メーカー、スウォッチの合弁会社として誕生しました。現在、スウォッチは撤退していますが、時代がようやく追いついてきた。この「smart vision EQ fortwo」の色やディスプレイは、ユーザーのニーズや好みに合わせてカスタマイズが可能だそうですが、まさに「クルマのスウォッチ化」ですよ、こうした潮流は今後も進むでしょう。つまり、これからのクルマは、スウォッチのように時計のムーブメントではなく、デザインで選ばれる。気分によっていくつか使い分ける。そんな時代になるでしょう。