1ページ目から読む
3/3ページ目

AI技術「感情エンジン」が行き先やBGMを選んでくれる

 今回のモーターショーで各社がアピールしている点は他にもあります。

 それがAI(人工知能)への取り組みです。これからクルマは単なる移動手段という枠を超えたマシンになる。下に挙げたホンダの「NeuV」は、人とのコミュニケーションを行うAI技術の「感情エンジン」を搭載しています。

 ドライバーの表情や声の調子から、その体調やストレスを、人工知能が判断する。またユーザーのライフスタイルや音楽の嗜好を学習するので、ドライバーの気分に応じてBGMを選び、行き先を提案するなど、コミュニケーションを図るようになるでしょう。

ADVERTISEMENT

ホンダ「NeuV」 ©三宅史郎/文藝春秋

 この「感情エンジン」はソフトバンクグループ傘下のcocoro SBが開発したAI技術ですが、ホンダに限らず、各社ともIT企業や、半導体業界との連携を進めています。

 これは見方を変えれば、未来のクルマは、いまの自動車会社だけでは手に負えないほどの機能が求められているということです。人工知能を駆使した自動運転技術もそう。いま半導体企業、IT企業、自動車会社がいくつかの連合軍を結成して覇を競っている状況です。

 また、モーターショーに出品されたコンセプト・カーの多くは、「コネクティビティ」、すなわち外部とつながる機能をうたっていました。クルマが移動しながら外部と通信することで、渋滞情報を入手してAIが最適なルートを自動で設定する、こんな機能も実用化されるでしょう。ヨーロッパではすでに、走行中のクルマが駐車スペースを発見すると、その情報が他のクルマに伝わる機能が実用化されています。

 つまり「クルマのスマホ化」が進む。そうなると、機械技術よりもソフトウェア技術の比重が高まるわけです。

 いま、こうしたソフトウェア技術をめぐって、自動車会社はもちろんのこと、他業種や部品メーカーが入り乱れて、主導権争いを繰り広げている状況です。

 そればかりではありません。クルマが外部とコネクトすることで、Uberなどシェアリング・サービスも普及するでしょう。じつはユーザーがクルマに乗っている時間は長くないのです。これまでは所有者が使わないとき、クルマは駐車場に眠っているだけでしたが、その間だけ外部からコントロールしてシェアリング・サービスに供することもできる。未来のクルマを左右するのは、自動車会社やIT企業といったハードウェア産業だけではなく、Uberなどのサービス産業でもあるのです。

およそ10年後のモーターショーには「空飛ぶクルマ」が

 では、最後におよそ10年後のモーターショーを予想してみましょう。東京モーターショーは2年に一度ですから、厳密にいえば、2029年と2031年に開催されます。

 そこでは、今回、挙げた「EV」「自動運転」「AI」「コネクティッド」という要素は当然のものになっているでしょう。

 この頃のコンセプト・カーは、おそらく「空飛ぶクルマ」ではないでしょうか。トヨタは、社内の若手グループらが自主的に進めていた「空飛ぶクルマ」開発プロジェクトへ企業として資金を提供することを決めています。

 モビリティ(移動体)として主役の位置を占めてきたクルマですが、その未来像は大きく変わっていくでしょう。そのときに「自動車会社」が存在しているのか。いま、産業界の頂点に君臨してきた自動車産業は、歴史の分岐点にあるのです。

自動車会社が消える日 (文春新書 1147)

井上 久男(著)

文藝春秋
2017年11月17日 発売

購入する