岡田准一が土方歳三を演じた映画「燃えよ剣」(10 月15日公開)がロングランヒット、三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ「新選組!」総集編の再放送が年始(2022年1月2日&3日深夜)に予定されるなど、新選組ブームが続いている。

 新選組といえば、天然理心流師範の近藤勇をはじめ、ケンカ剣術の土方歳三、19歳で免許皆伝の沖田総司をはじめ、錚々たる剣客ぞろい。だが、新選組の隊士すべてが剣に覚えのある者ばかりではない。会計の才を買われて、登用された隊士もいたのだ……。

 そんな男の悲喜劇を、『新選組血風録』所収の「海仙寺党異聞」からご紹介する。

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局中法度により斬首

 甲州出身の中倉主膳は愛嬌がなく、隊内での評判はよくなかった。同郷の長坂小十郎は「悪い人じゃありませんよ」とかばうが、ある日、中倉が背中を斬られて逃げてきた。

 

「闇夜で何者かに襲われた」と本人は弁明する。監察の調べで、情婦である小夜の家で間男に斬られたことが判明する。

 
 

 局中法度により、中倉は斬首と決まった。太刀取りとして副長の土方歳三が選んだのは、小十郎だった。小十郎の長坂家は水月流居合の宗家だが、彼は人を斬ったことがなかった。

 
 

 小十郎は新選組でずっと会計係をつとめていた。そもそも蘭方医になるために京都に出てきたのだった。斬首の直前、中倉は同郷の櫛屋利助の存在を小十郎に伝える。

 見事、太刀取りの役目を務めた小十郎。それを見た土方は、会計係から市中巡察へと小十郎に役職替えを命じる。