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阪神・大山悠輔が四番を打つ意味

 大山悠輔は、2016年のドラフト1位で入ってプロ5年目。僕が2016年・17年に二軍監督を務めて、1年間指導した。2019年に全143試合に出場して自信を深め、20年は28本塁打85打点で四番らしい数字を残した。

 2021年は規定打席到達打者中の最低打率で苦しむこともあったが、四番としての重圧を背負いながら野球をやっているのを十分感じ取れる。

「自分がある程度結果を残さないと、新人の(佐藤)テルがやりやすい環境じゃなくなる」と、新主将として率先して犠牲になっている。背中の張りで一時戦列を離れたが、復帰すると打線はすぐ「四番サード大山、六番ライト佐藤」のラインナップに戻った。

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「四番の犠牲」と「四番のわがまま」は表裏一体だ。

 仮に無死一・三塁で、二番打者なら「なぜ右方向に打たないんだ」と怒られるが、四番打者なら強打してショートゴロ併殺打でかまわない。四番の強打は相手に「怖さ」を与える。

©文藝春秋

 2020年、大山は併殺打がリーグ3位の15個あった。しかし、打点も岡本、村上に続くリーグ3位の85だ。

 佐藤も今後、そういう「犠牲」と「わがまま」を考えていかなくてはいけない時期がくる。

 2021年は大山が佐藤の「優勝時の四番」の手本となってもらいたかった。優勝はできなかったが、それは大山にとっても佐藤にとっても財産になったはずだ。僕も田淵幸一さんから「四番とはなんぞや」という所作を教わった。

 2018年オフだったか19年オフだったか、福留孝介が契約更改交渉のあと、「四番・大山を助けられる五番打者じゃなくて、大山に申し訳なく思っている」と話した。さらに2019年を最後に鳥谷敬がチームを去り、20年を最後に福留もチームを去った。

 大山がいま四番を打つことに関して僕たちはああでもない、こうでもないと言っているが、「前後を打つ手本となる強打者の存在」がないぶん、大山はすごく難しい野球をやっているはずだ。

 佐藤がこれだけ打ったことによって、大山も逆にプレッシャーを背負っている。しかし、彼はそれをおくびにも出さない。

 だから、大山の四番でチームが優勝するということが、将来的に打順は別にして、佐藤、大山、井上というクリーンアップに向けて、非常に大切になる。「四番・佐藤」のことを考えるのは、そのあとでいい。

「佐藤が5代目ミスター・タイガースになるために必要なことは?」とよくマスコミに訊かれるが、大山の四番を見た佐藤は、ゆっくりでも着実に階段を上っていくはずだ。

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