ITインフラから広告、金融、暗号資産まで幅広い分野でサービスを展開するGMOインターネットグループ。熊谷正寿代表の成長を続けるための「NO.1」戦略とは?その哲学に『文藝春秋』編集長・新谷学が迫る。

熊谷正寿氏
GMOインターネット株式会社 
代表取締役会長兼社長・グループ代表

新谷 学
聞き手●『文藝春秋』編集長

コロナ禍においても12期連続増収増益

新谷 御社に馴染みのない方もいるかもしれませんから、「GMOインターネットとは、こんな会社です」という自己紹介からお願いできますか。

熊谷 どなたもスマートフォンやパソコンで検索をされると思いますが、グーグルジャパンの検索結果の90%のドメイン(インターネット上の住所)、つまり.comやco.jpは、私どもが登録をさせていただいています。検索結果として出てくるウェブサイトの54%は、私どものデータセンターでお預かりしています。言い方を変えると、日本のインターネット上の情報の半分を管理する企業です。

新谷 インターネット金融も手がけていますね。

熊谷 銀行と証券のほかに、暗号資産があります。インターネットのインフラと金融の組み合わせが、ベースの事業になっています。グループ会社は現在106社で、上場が10社です。多くのお客様にお支えいただき、12期連続の増収増益を達成中で、今期(2021年度)も、おかげさまで足元の業績は好調です。

Masatoshi Kumagai
1963年生まれ。1991年の会社設立から、’95年にインターネット事業を開始し’99年上場。2005年GMOインターネットに社名変更。インターネットインフラ、広告、金融、暗号資産の4セグメント、上場10社含むグループ企業106社からなるGMOインターネットグループを率いる。
Masatoshi Kumagai
1963年生まれ。1991年の会社設立から、’95年にインターネット事業を開始し’99年上場。2005年GMOインターネットに社名変更。インターネットインフラ、広告、金融、暗号資産の4セグメント、上場10社含むグループ企業106社からなるGMOインターネットグループを率いる。

新谷 熊谷代表は、社員や従業員をパートナーと呼んでいますが、なぜですか。

熊谷 上下の目線がある言葉は、人の心を知らずに痛めつけ、組織から離れさせてしまう最初のきっかけになると思っているんです。ですから、社員や従業員をパートナーとか仲間と呼び、子会社はグループ会社と言っています。

新谷 GMOが注目された出来事に、コロナ禍への対応がありました。いち早くリモートワークに踏み切ったのも、パートナーを大事にするお気持ちからですか。

熊谷 その通りです。一昨年の1月27日から、本社のある渋谷地区と、大阪市、福岡市に勤める4000名を、一斉に在宅勤務としました。日本国内で感染者はまだ3人しか見つかっていない段階でしたが、大切なパートナーとご家族の命を守るために、正しいと考えたんです。

新谷 世の中が騒ぎ始めたのは、横浜に「ダイヤモンド・プリンセス号」が入港した2月3日以降です。それより1週間も早い決断だったわけですね。結果を見れば、極めて適切でした。

熊谷 感染が拡大する確率を自分で計算してみて、これは危険だと判断しました。迅速に実行できたのは、地震や災害、疫病の蔓延などの有事に備えて、以前からBCP(事業継続計画)を立てて訓練していたからです。

新谷 リモートワークを推奨する中で、印鑑の廃止も宣言されて話題になりました。働き方改革のトップランナーというイメージを強く受けますけど、断行できるのは独裁者だからですか(笑)。

熊谷 いやいや、僕は、現場のパートナーや幹部の仲間たちの意見を吸い上げて、お任せするタイプ。創業から26年間で自らが作った最も誇れるプロダクトは、パートナー・幹部自らが仕事を作って回していく「自走式の仕組み」を作ったことです。僕の仕事はただ祈るだけ。だから「祈る経営」と言っています。

2030年、渋谷に空飛ぶクルマが!?

新谷 GMOが力を入れている事業の中で、私が非常に興味を惹かれたのは「空飛ぶクルマ」です。つまり有人ドローンですよね。

熊谷 空飛ぶクルマに関して進めているのは3点です。ベンチャーキャピタル「ドローンファンド」への出資。経産省と国交省が運営する「空の移動革命に向けた官民協議会」と、「大阪・関西万博×空飛ぶクルマ実装タスクフォース」への参加。もうひとつは、大阪・関西万博でエアタクシーを飛ばす「スカイドライブ」という会社に、我々のSSLというセキュリティシールを提供して、通信が妨害されたり情報を盗まれたりしないようにお守りする仕事です。

「空飛ぶクルマ」=有人ドローンのイメージ図。経産省と国交省が運営する「空の移動革命に向けた官民協議会」などに参加し研究開発を進める。2025年大阪・関西万博で発表、2030年までの実用化を目指す。
「空飛ぶクルマ」=有人ドローンのイメージ図。経産省と国交省が運営する「空の移動革命に向けた官民協議会」などに参加し研究開発を進める。2025年大阪・関西万博で発表、2030年までの実用化を目指す。

新谷 有人ドローンの実用化は、まだ先ですか。

熊谷 いいえ。3年後に大阪・関西万博で飛んだら、そのまま航路として残ります。最初は観光目的でしょうけど、おそらく2030年までに渋谷の空を飛びますよ。

新谷 え? 人の乗ったクルマがですか。

熊谷 そうです。ITや新しいテクノロジーって1、2年では思っているほど変わりませんけど、5年や10年先は予想以上に進む世界ですから。

新谷 出版界で大きなネックになっているのが、雑誌や本の配送網です。トラックの運転手さんの人員不足も含めて、手間と時間がかかります。大型のドローンで輸送できるように、早く開発が進まないかなと思っているんです。

熊谷 エアタクシーや無人トラックが空を飛ぶ時代は、あっという間に来ます。空は、産業的に最後のフロンティアです。電動なので、多くの人がエコに移動できます。

新谷 大きなビジネスになりそうですね。

Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『Number』他を経て2012年『週刊文春』編集長。2021年7月より現職。
Manabu Shintani
1964年生まれ。早稲田大学卒業後、文藝春秋に入社。『Number』他を経て2012年『週刊文春』編集長。2021年7月より現職。

熊谷 今は無線で飛んでいるケースもあるのですが、5Gで運行されるようになると直接ネットに繋がることになりますから、SSLのようなお守りするテクノロジーが必要になります。収益が上がるのは10年後でしょうけど、世界的な産業になるはずです。

新谷 熊谷さんはヘリコプターと自家用ジェット機をお持ちで、ご自分で操縦されるんですよね。

熊谷 はい。子どものころ、空を飛ぶ夢をよく見たんです。平泳ぎでしたけど(笑)。物心ついたときには忘れていたあの気持ちが、トム・クルーズの『トップガン』を観たらメラメラと湧いてきまして。そのあとも仕事にかまけていたんですが、53歳のときかな、今やらなければ無理だと思い立って、2年かけてヘリの免許を取りました。そのあとまた2年かけて、飛行機の免許を取ったんです。その知見を、この産業に生かしていくこともありだなと思っています。

新谷 自分で操縦するのは、気持ちいいですか。

熊谷 大好きな空と一体化できている気がして癒されますね。

新谷 なるほど。とても幸せな時間なのですね(笑)。ところで暗号資産の事業は伸びていますか。

熊谷 昨年ようやく、収益の第三の柱になってきました。ブロックチェーンの仕組みは、世の中を変えるテクノロジーだと確信を深めています。

新谷 しかし盗難や流出事件もあって、胡散臭いイメージで見られがちです。

熊谷 実は、暗号資産そのものが改ざんされたことは一回もありません。起こっている問題はハッキングによる盗難などで、サービスの提供側にセキュリティホールがあるためです。テクノロジーは堅牢だと証明されたので、今後は変わっていくと思います。

新谷 どんなふうに利用できますか。

熊谷 現在はお金がメインになっていますけど、今後はNFT(Non-Fungible Token=非代替性トークン)ですね。それこそ、文藝春秋のように著作権をビジネスにする企業やIPホルダー向けです。インターネットが普及してから現在までは、著作権が侵害されたりコピーされ放題で、知名度こそ上がれど、収入に繋がらない期間だったと思うんです。

新谷 その通りです。私も、週刊文春時代を含めてさまざまなスクープを世に問うてきたわけですが、記事がコピーされまくり拡散されまくり、我々には一銭も入ってこない状況でした。これはおかしい。スクープにタグ付けするなりして、拡散するたびに収益化できる仕組みが作れないかと、ずっと考えていました。

熊谷 良い意味で、逆襲のチャンスが訪れたと思いますよ。NFTでは、代替性のない権利や所有者情報をブロックチェーンに記録することで、デジタルコンテンツをはじめとするモノの所有権を証明できます。二次流通や三次流通でも、販売者や所有者が収益を得られるんです。

新谷 それは素晴らしい。

熊谷 芸術や音楽なら、評価されて作品が流通するアーティストに、繰り返し創作資金が入ります。僕が事業家人生で衝撃を受けたことの一番は、もちろんインターネットとの巡り合いです。二度目がブロックチェーン。そして三度目の衝撃が、NFTなんです。この課金の仕組みは、世の中を変えると思います。

新谷 GMOは、決済のビジネスで関与するんですか。

熊谷 もちろん決済でも関与しますし、マーケットプレイスそのものを「Adam by  GMO(アダム バイ ジーエムオー)」という名前で昨年リリースしたばかりです。多くのIPホルダーの方に喜んでいただけるプラットフォームに育てたいです。

スポーツ支援を通じて企業姿勢を伝えたい

新谷 もうひとつ伺いたいのは、スポーツへの積極的なサポートです。2016年に、陸上長距離のチーム「GMOアスリーツ」を創設されましたね。青山学院大学出身の吉田祐也選手が一昨年の福岡国際マラソンで優勝して、駅伝は昨年の東日本実業団で5位に入って、今年のニューイヤー駅伝にも出場しました。競泳日本代表の後援もされています。

陸上長距離のチーム「GMOアスリーツ」のメンバー。先日行われた第66回ニューイヤー駅伝に出場。他にも、競泳日本代表の後援などスポーツも積極的に支援している。
陸上長距離のチーム「GMOアスリーツ」のメンバー。先日行われた第66回ニューイヤー駅伝に出場。他にも、競泳日本代表の後援などスポーツも積極的に支援している。

熊谷 私どもの提供しているサービスはインターネットの裏方のインフラ事業なので、目に見えにくいものが多いんです。なので世の中に見える形で、企業姿勢などをお伝えしたいと考えました。陸上からは撤退する会社が多いので、ベンチャーとして名乗りを上げて短期間に成果が出せたら、企業としてのスピード感もPRできます。

新谷 私が熊谷代表に共感するのは、一番を目指す姿勢です。何のために一番になるのか。ナンバーワン哲学を最後にお聞かせください。

熊谷 一番儲けようとかシェアで一番を目指そうと口にしたことはなくて、一番いいサービスを提供しようと言い続けています。我々が広げてきたインターネットは、物事を比較する時間とコストをゼロにしました。すべてを瞬時に比較できますから、企業もまた、本当にいいサービスをリーズナブルに提供しなければ生き残れません。

新谷 我々メディアの世界も同じです。インターネットはごまかしが利きませんから、手の内がすべて見える化してしまい、本当に本物の情報でなければ信用されなくなりました。本質を突いた腑に落ちるご説明です。

熊谷 シェアや利益は目的ではなく、ナンバーワンのサービスを提供し続けた結果です。お客さまに一番喜んでいただけるサービスを、今後も追求し続けます。


Text: Kenichiro Ishii
Photograph: Miki Fukano