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僕が見た、最初で最後の潤んだ瞳…“同世代のヒーロー”ソフトバンク・柳田悠岐との忘れられないやりとり

文春野球コラム ペナントレース2022

2022/05/27
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 柳田悠岐の愛称「ギータ」。

 たった3文字のカタカナなのに、この文字面から受ける頼もしさったらない。「孫悟空」とか「ルフィ」のそれと似ている。特に福岡の人間にとってはひとしおだ。同じ土地に暮らすヒーローに「“あいつ”ならなんとかしてくれる」と無責任で純粋な期待を寄せるのは必然だろう。そして、この時期は更にヒーローへ期待を寄せてしまう。

「今年入った柳田っているんだけど、アイツまじでハンパない」

 プロ野球は交流戦に突入。ホークスはこれまで無類の強さを誇り、過去16回で219勝135敗18分、勝率.619で驚異の8回優勝。その中でもギータは2015年・2017年と2度のMVPを獲得した。交流戦MVPを複数回獲得したのは地球上で彼ひとりである。ハマの番長から放ったスコアボード破壊ホームランや、スワローズの久古投手がヒザから崩れたボテボテサヨナラヒットなど、球史にも記憶にも残る伝説の一打を魅せてくれた。今シーズンはどんな伝説が生まれるんだろう。

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 でも……いつも思うことがある。ギータに関しては「元気に野球をやってさえくれてればそれでいい」のだ。そりゃあ活躍はしてほしい。でも、無邪気に野球場を駆け回り、ニカニカ笑ってる野球少年のような彼が見られれば、それでいいのだ。そう思うのには、ある大きな理由があった。

柳田悠岐と筆者 ©長岡大雅

 さっきから、彼に活躍してほしいんだか何だか情緒不安定な能書きをすみません。はじめまして、福岡のKBC九州朝日放送アナウンサー長岡大雅と申します。1988年生まれ、東京都出身。小学校から大学まで野球部(大学は準硬式)。いわゆるハンカチ世代で、早稲田実業は隣町だったので甲子園優勝を羨望の眼差しで見つめていた。そんな中、縁もゆかりもない就職先の福岡の地で同世代のギータに出会った。

 11年ほど前か。自分にとって未知の地である福岡ではじめて出来た友人が、当時ホークスに在籍していた福田秀平(現マリーンズ)だった。彼とは高校時代に対戦歴があり、意を決して当時のヤフードームのベンチで声を掛けた。すると驚くほど気さくで、人との垣根がなく、本当に彼には救われた。ある日、秀平と「ココイチ」でカレーを食べていると彼が言った。

「同い年でさぁ、今年入った柳田っているんだけど、アイツまじでハンパない。絶対将来プロ野球を代表するバッターになる。マジで飛ばす」

 当時は「ほぇ~」くらいの感じで受け止めた。それから時を待たずしてギータが僕の前に現れた。

 秀平が「紹介するわ~」くらいのノリでギータを飯に誘い「うぃーす」と今も変わらない軽めの挨拶で彼が登場。マジでデカかった。でも、ノリのいい、少し人見知りの、とにかく素直なナイスガイ。そこまで気を遣う事もなく、同世代の友人として知り合った。それから秀平も含め、同世代というくくりの中で、たまーに飯に行くくらいの仲になった。

 すると、見る見るうちにギータは1軍に上がり、トリプルスリーを達成し、一躍ホークスの主軸……いや、プロ野球界の宝へと成長を遂げた。

 ギータとは頻繁に会うワケではなかったものの、ドームで挨拶したり、結婚式の2次会の司会を仰せつかったり、取材でバッティングセンターに行ったり、たまに顔を合わせていた。その度に、いつも感じていた。彼はなーんにも変わらない。輝かしい成績を収めようと、日本中にその名を轟かせようと、決してオゴることなく“いいあんちゃん”的なギータがそこにいた。「うぃーす」「行っちゃいやしょう」「やばいっしょ」変わらないギータ節を聞くと安心する。

©長岡大雅
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