北朝鮮国内に存在する「統一教会の布教拠点」
平安北道の文氏の生家近くには「世界平和公園」が造成され、「文鮮明総裁生家コース」なる教会信者向けの名所も整備されている。平壌市内には、礼拝堂を完備したビル「平壌世界平和センター」も建設しており、北朝鮮国内に布教拠点は複数存在している。
これほどまでに緊密な関係を築いた背景には、統一教会側からの巨額の資本流入があった。折しも北朝鮮では、1994年から1998年にかけて「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉に見舞われ、金正日政権は存亡の危機に瀕していた。政権が困窮の度を深める中で、統一教会の潤沢な資金への依存度はますます高まっていく。
「金正日はこの時期、統一戦線部を通じて、統一教会と“ある契約”を交わしているんです。北の代表的な高級ホテルである『普通江(ポトンガン)ホテル』の50年期限の賃貸契約権を統一教会に譲渡し、さらにホテルに併設された高級レストラン『安山館』の経営権も統一教会側に譲り渡している。これらのホテル施設は、その後長らく統一教会信者の定宿になった」(前出の関係者)
統一教会側が運営を担った「安山館」は、「金正日の料理人」として注目を浴びた藤本健二氏が料理人を務めていたことで知られる。外国からの要人もよく訪れたというこのレストランは、特殊な“接待所”としての機能も備えていたのだという。
「東南アジアや東ヨーロッパなどから拉致してきた女性をホステスとして働かせていました。内部では売春も横行しており、北はここを外貨獲得の重要拠点としていたのです。統一戦線部と統一教会側の共同運営の形を取り、得られた収益はそれぞれで分配していました」(同前)
強固な関係性を次世代が継続
その後、2011年12月に金正日が急死。さらに2012年9月には文鮮明氏が92歳の生涯を閉じた。
絶対的な権力者が相次いで死去しても、北と統一教会との関係が途絶えることはなかった。文氏の死去に際して、父の後を継いだ金正恩は、2012年9月に文氏の死を悼む弔電を教会側に送っている。さらに、毎年の追悼行事のたびに教団本部に弔電と弔問のための代表団も送り込んでおり、両者の結びつきがいまだ強固なものであることを印象づけている。
安倍氏の銃撃事件で、霊感商法や過酷な献金システムなど“負の側面”に光が当てられている「教団」と、国際秩序に脅威を与える「ならず者国家」との深すぎる関係。共生しあっているようにも映る両者の歪な紐帯が意味するものとは、いったい何なのだろうか。