列島を揺るがせた衝撃的な事件によって、ある宗教団体の存在がにわかにクローズアップされている。安倍晋三元首相を参議院選挙での遊説中に銃撃し、死亡させたとして殺人容疑で逮捕された山上徹也容疑者(41)が、凶行の動機として上げたキリスト教系の宗教法人「統一教会」(旧略称。現・世界平和統一家庭連合)である。
1954年に教団を設立した教祖、文鮮明(ムン・ソンミョン)氏は、安倍氏の祖父である岸信介元首相ら各国の要人に接近し、その関係性を喧伝することで組織を拡大していったとされる。
そして、半世紀以上にわたる活動で、日本の政界に浸透していった教団は、北朝鮮とも独自のパイプを築いていた。記録写真にも残る文氏と金日成(キム・イルソン)との“蜜月”のみならず、その関係は、3代にわたるロイヤルファミリーの世襲体制に引き継がれているという。
「金正日から統一教会の文鮮明総裁(享年92)に届けられた親書がある」
声を潜めてこう証言するのは、ある韓国の情報当局者だ。
この当局者が、その「事実」をはじめて耳にしたのは、20数年前。ある脱北者と接触した時のことだった。
「私が接触したのは、1990年代の後半に北韓(北朝鮮)から渡ってきた脱北者でした。当時、北は大飢饉や、核ミサイル開発への過剰投資の影響で疲弊し、金正日の政権基盤は揺らぎに揺らいでいた。一般大衆のみならず、朝鮮労働党の高官にも脱北が相次いでいた時期で、その男も政権中枢のそばにいた元高官、いわゆる『高位脱北者』と呼ばれる一人でした」
北の外交部門にも関わっていたという脱北者は2013年12月、金正恩(キム・ジョンウン)に粛清された張成沢(チャン・ソンテク)とも交流があり、「北の機密情報に触れる機会が多かったのは間違いない」(前出の情報当局者)人物だったという。
その人物の口からついて出たのが、世界規模で展開する新興宗教の教祖と、独裁国家の首領の名前だったというのだ。さらに証言を重ねた男は、「統一教会が展開する北の事業」についても詳細を明かした。知られざるその中身と、北朝鮮と統一教会の“本当の関係”とは――。
◇
金正日から統一教会総裁への《親書》
《統一教会総裁文鮮明先生に捧げます》
1996年のある日、こんな書き出しで始まる《親書》が文鮮明氏に手渡された。親書の差し出し人は、1994年に急死した父・金日成国家主席から権力を受け継ぎ、事実上の最高指導者となっていた金正日(キム・ジョンイル)氏。
当時、ヨーロッパ某国の北朝鮮の大使館に、北朝鮮本国から、ある「特別指令」が届いた。前出の当局者が当時の状況をこう説明する。
「文鮮明と面会し、親書を渡せ。それが、『特別指令』の内容でした。指令は、朝鮮労働党統一戦線部を通じて下されたのだといいます」
《親書》はさらにこう続いたという。