文春オンライン

「コロナ禍の終わりはもう目の前まで来ている。しかし…」現役医師・知念実希人が見た、医療現場の“壮絶なリアル”

2022/10/24

source : 文藝出版局

genre : ライフ, 医療, 読書, 社会

note

 そんな状況に消耗している医療従事者たちの心の支えは、世界中の叡智が力を合わせて開発に取り組んでいるワクチンだった。莫大な資本が注ぎ込まれ、複数のメガファーマが全力で開発を行った結果、想定をはるかに超える有効性と安全性を供えた新型コロナウイルスのワクチンが、未だかつてない速度で開発された。

 天然痘、コレラ、ペスト、そしてスペイン風邪。歴史上、パンデミックにおいて人間は病原体に蹂躙され続けてきた。ただ頭を下げて嵐が過ぎ去るのをまち、生き残った者たちで社会を復興させてきた。しかし、今回ははじめてウイルスとの戦争に勝てるかもしれない。そんな希望に冷や水をかけたのは、一部のメディアや自称専門科による反ワクチン活動だった。彼らが誤情報をまき散らし、ワクチンの普及を妨げようとするのを、専門家たちが正しい知識を啓発することで必死に防ぎ続けた。なぜウイルスとの全面戦争との真っ最中に、人間同士で争わなければならないのか。そんな理不尽に多くの医療関係者は強い怒りと絶望をおぼえた。

 しかし、一部の人々からの差別や、反ワクチン活動に打ちのめされた医療従事者に希望を与えてくれたのもまた、人々の行動だった。

ADVERTISEMENT

※写真はイメージです ©iStock.com

コロナ禍の終わりはもう目の前?

 日本では多くの人々がマスク、手洗い、三密回避などの感染対策を辛抱強く徹底したうえ、誤情報に惑わされることなく積極的にワクチン接種を受けてくれた。それにより、日本は世界で最も新型コロナによる被害を少なく抑え込んだ国の一つとなった。

 大きな危機に直面すると、人間の本質は容赦なくあばかれる。新型コロナウイルスという増殖することだけをプログラミングされた有機機械は、人間の醜さと気高さを同時に炙りだしてくれた。

 ワクチン接種や感染によって国民の多くが獲得免疫を得たことにより、COVIDの致死率は大きく下がった。変異により想像を絶する伝播性を得たこのウイルスを完全に社会から排除することはもはや不可能だが、インフルエンザと同じように季節性の感染症として受け入れても問題ないレベルの脅威に近づきつつある。間違いなく、『コロナ禍』の終わりはもう目の前まで来ている。

 しかし、ゴールが近いからこそ慎重になる必要がある。今年に入って生じたオミクロン株による第6・7波は、小児を起点に感染爆発を起こし2万人以上の死者を出してしまった。そして、その中には40人以上の子供が含まれている。