苦しみ抜いた1年半
だが3年生となり、時本に加え、ともに投手陣を引っ張ってきた大野亨輔(現MHPS)が卒業し、エースを任されるようになってからは苦しい投球が続いた。春は2勝3敗で防御率4.06。秋にいたっては0勝4敗で防御率5.83。ストレートを速く投げようと思うがあまり、走者を気にして速いモーションで投げようと思うがあまり、体が前に倒れる形になり、キレ・制球力ともに落ちてしまっていた。また、時本の後の正捕手もなかなか固定されなかった。
「これまでは(時本を頼って)自分で考えてやってこなかったので、高いレベルの対応をしてくる相手に追いつかない部分がありました。ストレートでガンガン押して変化球で勝負という投手だったのに、当時の映像を見ると、変化球でカウント取ってストレートで勝負ということが3年の時は増えていましたね」
そう話すように投球の軸もブレてしまった。そして4年生となった春は0勝2敗、防御率7.58という過去最低の成績でチームに貢献することはできず、入れ替え戦でも高橋は白星を挙げられず、2部降格が決まった。
渡辺俊介さんのように
だが、ドラフトを前にした昨秋に高橋は復活を遂げる。夏場には齋藤正直監督と藤田康夫投手コーチがブルペンでつきっきりとなり、1球ごとにフォームをチェックした。
当然、これまで積み上げてきた方法論とは異なるアドバイスもあり、迷うこともあったと言うが、その試行錯誤の中で得られるものも多かった。
「まず“やってみた上でやりやすい方をやる”という考えもできました。また(打者出身の)監督からもアドバイスをもらうことで“打者からの目線で投球することも大事なんだな”と引き出しが増えました」
そして一時期陥っていた「速く投げよう」「他の投手よりも良い投球を」といった邪念も消え去り、「そんなに良く見せようと思っても、それ以上の評価はもらえませんし、自分は自分の評価があって、他人は他人の評価がある」と開き直ることができた。2部リーグとはいえ5勝をマークし復活を印象付けた。
また、「球速が出てなくても、空振りを取れたり、高めのボール球で三振が取れました。球速を出さずに打者を抑えるのができたことが収穫です」と最後のシーズンで確実な手応えを得た。
この4年間、高橋自身の中で変わったことを尋ねると「全部変わりました。1人のバッターをアウトにする難しさを年々感じました」と話す。一方で「野球を楽しもうという気持ちは変わらずにやってこられました」とも言う。
「勝った時は当然楽しいですし、負ける時も理由があって負けているわけで、それを改善できたら楽しいですからね」
そして、この4年間高橋を見てきて変わらなかったのが、負けた後の飄々とした態度だ。負けて泣いたことがあるかを尋ねてみると「無いですね。負けて悔しがるのを相手に見られるのが一番嫌いなんで」と力を込めた。
憧れる投手には同じアンダースロー右腕の渡辺俊介(元ロッテ/現新日鐵住金かずさマジック)の名前を挙げる。「表情に出さず淡々としているけれど、それで内心燃えている感じがカッコイイと思います。一つひとつのことに一喜一憂したくないですね。それは、自分としてはカッコ良くなく見えてしまうというか。キレイに見えないです」
変則だが小手先ではかわさない。飄々としているが心は熱く。4年間で確立した揺るがぬ哲学や美学が、これからも高橋の原動力となる。
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