同じく収録されているYUIの「CHE.R.RY」は2007年にリリース。10年も経つと「指先で送るキミへのメッセージ」とあるように、もうケータイメールも一般化している。この年にAppleが初代iPhoneを発表し、翌年の2008年には、ソフトバンクが日本初のiPhone端末「iPhone 3G」を発売した。
今やSNSが普及し、スマホさえあればどこでも秒でつながれるようになった時代。けれど「返事はすぐにしちゃダメ」といった駆け引きは変わらない。物理的なすれ違いは減ったが距離を言い訳にできなくなったぶんだけ言葉や思いのすれ違いは増え、別のドラマ性を生んでいる。
平成に進化した「カラオケ」
もうひとつ、平成に進化した「なかなか言えない本当の気持ちを伝える」手段がある。カラオケだ。ドラマでもよく流れたZONEの名曲「secret base ~君がくれたもの~」(2001年)は今でもカラオケでよく歌われる。この曲とKiroroの「Best Friend」は私も経験があるが、友だちと一緒に歌いながら、照れてなかなか言いにくい感謝や再会の約束を言える。歌の力を借りて本音を吐露する。カラオケとは、そういった役目も果たしてくれる。
カラオケボックスが一般普及したのは昭和の終わり1986年ごろから。その急激な普及とバラエティ豊かな発展はJ-POP全盛の背中を押した。ヒット曲だけ書かれた薄いカタログを見ながら曲を入れていたのが、次第にアルバム楽曲もどんどん入り、リモコンになり。オンラインでデュエットしたり、見知らぬ土地の見知らぬ人とランキングを争えるまでになった。
昭和歌謡がドラマチックで非日常な「主人公」になれる気持ちよさがあるとすれば、心象風景を歌う曲が多い平成J-POPは、歌うことで素直になり、自問自答をアウトプットできるイメージだ。
ドラマで加藤(宮下雄也)が歌っていたレミオロメンの「粉雪」も、「もしもあの時こうだったら」という後悔を吐き出すのに最高である。
平成シングル、アルバム第1位は?
ドラマ本編とコンピレーションアルバムには、2000年代に一世を風靡した宇多田ヒカルの曲は出てこない。……と思っていたら、huluのアナザーストーリーで登場! 同級生 “ぺーたん”(うらじぬの)の回「First Love」でフィーチャーされていた(歌がとてもうまい!)。平成アルバム売り上げ第1位のタイトルを、さりげなくアナザーストーリーで取り上げるとはニクい演出だ。Mr.Childrenも本編では流れないが、まりりん(水川あさみ)回のタイトル「Cross Road」は、ついついミスチル「CROSS ROAD」を思い出す。
ちなみに、平成シングル売り上げ第1位はSMAP「世界に一つだけの花」で、こちらはアナザーストーリーにも登場しないが、ここまでくれば「きっと同級生の誰かがカラオケで歌っている」と想像できる。なんとも粋な構成。バカリズム、どこまでも恐ろしい。
カラオケでキャラや展開が見えるこのドラマを観ていると、平成の「メガヒット以外」の大勢が歌える“スマッシュヒット”の多様さに改めて驚く。アイドルに歌姫系、バンドブーム、HIPHOPにレゲエ、ドラマ主題歌などなど、ジャンルはバラバラ。それでも、タイトルを見ればほぼ鼻歌やカラオケでサビが出てくるし、そのシーンに共感できる。これは新たな文化の波に押されつつも、テレビ、CDという媒体がまだ元気だった平成ヒットならでは。
老若男女が認知する「ヒット曲」と、たとえトップ10に入らずとも、タイトルを見れば鼻歌やカラオケでサビが出てくる「キャッチーな曲」、そして「個人で深めていく曲」の黄金トライアングル時代だったのかも、と思うのだ。
おかげで「一緒にカラオケに行き、あの曲を歌ってほしい」とまで妄想が膨らんだ。たぶんフクちゃん(染谷将太)は、MONGOL800の「小さな恋のうた」や湘南乃風の「純恋歌」もうまいはず。「粉雪」を熱唱した加藤は、スキマスイッチの「奏(かなで)」もよく歌うんじゃないかな、まりりんには、モーニング娘。の「シャボン玉」のセリフを叫んでほしい……。妄想が跳ねて楽しかった。